羽前 篝とあんなことがあったその日の夜。 いつものように寝れずオレ、斎藤 崇はいつまでもいつまでも起きていた。
(やばい。3時に近いのに全然寝れない・・・。)
時計の秒針を刻むカチカチと鳴る音もいつも以上に気になるが、それ以上に気になるのが自分の今の気持ち。 アイツのせいで妙な気持ちが宿っていて、その考えに整理が付かなくて眠れなくて、なんとか寝ようとしてもやっぱり考えちゃっての繰り返し。悪循環が働いてしまってる。
「・・・・・・・・・。」
あの告白から数日が経って、改めて考え直した上で生まれてくる心の片隅に隠れた気持ち。 それは何か分からないが、以前から少しだけ感じていたモノだったのかもしれない。
結局、その日は一寸も寝れないまま学校に登校。 朝日が目にしみて眩しいが、ここで閉じたら寝てしまう。細めになってもいいから無理矢理でもこじ開けて、フラフラしながらいつもと違う通学路を歩く。 その時、
「先輩、おはよっ!」
「!?」
ポンっと背中を叩かれ振り返ると、そこには寝不足の元凶を作った篝の姿があった。
(あれ?おかしいな。通学路一本変えて少し早めに家出たのに、なんでこんなとこにいるんだ!?)
その事に色々気になるところがあるが、今はそれどころではないオレ。 篝を見た途端、昨日のアレがフラッシュバックして思い出し、バッとモロに奴から顔を逸らす。
「・・・・・・はよ。」
「・・・・・・。」
あんなことがあった後の今日なんだ。 まともに篝の顔なんて見れるわけがない。 あんなことされるなんて思ってもなかったし、そもそも初めてだったわけだし、とにかく意識するなって言う方が無理な話。
「今日もいい天気だねー。」
「そう・・・、だな。」
そんな状態で隣を歩かれ何かを話されても、耳の穴の中をそのまま素通りに抜けていくばかりで何を話してるのか分からない。けど無視するわけにもいかないから、それっぽい言葉でテキトーに相槌を打ちながらちょっとずつ距離を離す。
「でも降水確率0%なのに、午後から雨降るかもしれないんだってー。」
「おう。そう・・・、だな。」
「あと雪ときどき霰ときどき槍も降ってくるって、注意報とか警報も出てたよねー。」
「おう。そう・・・、だな。」
すると、
「先輩。」
「な、なんだよ?」
「それ以上俺から離れたら、抱きつくよ?」
「!?」
明らか様におかしいオレの様子はバレバレだったようだ。 そんな一言でドキッと我に戻ったオレは、置かせたこの距離を一瞬にして縮ませる。
「あははッ。先輩って分かりやすい性格だよね。可愛い〜。」
「な!?可愛い言うな!」
「ここ最近、本当にマジで俺、先輩のこと分かるようになってきたかも。例えばー・・・。」
昨日の今日でオレはいっぱいいっぱいなのに、へっちゃらで余裕綽々な篝を見てたら、なんかだんだんと・・・。 しかもなんで変えたはずの通学路でバッタリ会うんだろう?こうなったら明日は。
(また一本道変えて、時間も遅めに出よう。) 「今度は通学路一本また道変えて、家を少し出よう。」
(ん?)
「って思ってたりしてない?」
とか何とか自分が思っていたことと、篝の発言がまさかの一致。 あまりにもキレイに揃いすぎて、図星つかれたオレは思わず返す言葉を失う。
「〜〜〜・・・っ。」
「あははははッ。先輩って本当に分かりやすいね。」
「うるさい!黙れ!」
こっちはいっぱいいっぱいだったのに、それをおちょくられて腹が立ってきたし凄くムカつく。 クソ、クソ、クソ、クソ、やっぱクソ! そんな野郎を少しでも意識したオレが間違ってた。
「うんうん。これも先輩に忠実してきた成果の賜物だよね。」
昨日のアレはともかくとして、そんな篝はいつものいけ好かない篝だった。
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