「ごめんね。俺、嘘つくとこの人に捨てれられちゃうから嘘つけないんだ。」
「・・・・・・・・・。」
なんてことをマジなトーンで言うものだから、せっかく笑い話にもっていった話も枯れてしまう。 おかげでみんなどんな反応をしていいか困ってるのが目に見える。のでオレからも弁明。先に言われてしまったが今からでも遅くはない。 彼らに助けを求めて、笑い話も戻させてもらおう。
「いやいや違うから!変な風に言って友達からかうなよ。オレだって本気で困ってくるからマジで言うのやめろって。」
「先輩。俺に嘘つくなって言ったくせに、なのに先輩が嘘つくの?」
「・・・・・・・・・。」
だが、またガチなトーンでそれを言われ、オレは言葉を飲んでしまった。 ここぞとばかりに人が言ったことで上げ足を取りやがって・・・! そしてそんなオレと篝を見ていた篝の同級生たちは、マジだと確信されてしまい、オレらから距離離してヒソヒソヒソと彼らだけで内輪話。 何を語っているのか聞きたくないし、知りたくないし、知らないままでいたい。
「既成事実って、こういうのでも作られていくんだね。」
この話に篝一人だけが余裕の顔で笑っていたが、オレにとって人生エンド。 学校生活マジで終わった。と思えるほど、オレと篝がデキてる噂があることないこと色んなことが交わって歩き渡っていった。
けど、それも長くは続かなかった。
三年の平凡なオレと特待クラスで黙っていればただのイケメンな篝。 一部では色々言われているようだが、今まで何もなく普通にしてても関わりがなかったオレらだったから、あることないこと色んなことを含んだ噂は一日もせずに流れていった。 けど代わりに生まれた話題が一つ。
「斉藤と二年の羽前(アイツら)の噂。マジな方にいくら賭ける?」
それはマジであってもマジでなくても、彼らにとっては一つの笑い話であり、一つの暇つぶしに過ぎなかった。
その日の夜。 夢の中でオレは小学生に戻っていた。 地味で目立たないのに立派に鼻水垂らしたしょうもないクソガキに、初めて好きな子が出来たんだ。 たまたま席が隣同士になって、たまたま話した話題が盛り上がって、笑った顔に惹かれていったこと。 はじまりはあまり覚えてないが、好きだと自覚したその日からのドキドキは凄く鮮明に覚えてる。 けどその子はクラスの人気者で、オレ以外にも彼女に好意を抱く男子もいた。でもその男子とはウマがあったことがなく、オレが彼を苦手だと思ってると同時に向こうはオレのことが嫌いだったのだろう。 あの日の春休み。それは忘れたはずの思い出ではなく、忘れたフリをしていた消せない過去。 嘘のラブレーターをもらい呼び出されて、嘘の告白をされたんだ。 好きだったのに。 本当に好きだったから、嬉しかったのに。 それが嘘だと明かされたとき、騙されたオレを見てみんな笑っていた。 苦手なあの男子も、好きだった女の子も。 そんなわけないのにねーって。エイプリルフールだから普通気づくだろって。みんなみんな騙されたオレが可笑しくて、凄く笑っていた。 一部ではお金も賭けてた奴もいて負けた側は騙されたオレを責めて、めちゃくちゃな誹謗な言葉を言われたがあまり覚えてない。 そして騙されたオレは、凄く泣いていた。 悲しくて泣いてるのか、悔しくて泣いているのか。 当事者なくせして、どっちなのか分からない。 そうして夢から覚めた今のオレも泣いていて、未だにどっちなのか答えが出せなかった。
もう、嫌だ・・・。
終わりにしてくれ。
終わりを求めたオレが望んだのは、終わりだけ。 授業が終わった放課後。オレは交換した連絡手段を使って篝を人が来そうにない場所へ呼び出す。 ここはたまたま鍵が閉められてなかった空き教室。 周辺で活動する部活動もなければ、用がなければこんな所に来る人いない場所だから邪魔モノは誰もいない。 そんな人気のない教室でオレは篝を待っていた。
「・・・・・・。」
アイツからオレへはしょっちゅうだけど、オレからアイツへは今日のその時が初めて。 彼はオレに呼び出されたことが嬉しかったようで、真っ直ぐここに来て姿を見せる。
「先輩から呼び出されるなんて驚いたよ。初めてだからビックリ〜。どうしたの?こんなところに呼び出して。」
そして用は手短に、簡潔に終わらせようとした。
「・・・もう、十分楽しんだだろ?ここで終わりにしてくれないか?」
「は。先輩?いきなり何を言って?」
「まだ三ヶ月経ってないけど、オレやっぱりお前が気に食わないままだし、あれからちっとも変ってない。これ以上は時間の無駄だ。オレだってそろそろ受験勉強に専念してたいし、ここらで止めにしないか?この関係。」
用意していた色んな言葉を武器にして、この関係に終止符を打つ。 どれもこれもこっちからの一方的な理由。 篝がここに来るまでに必死に考えた別れ文句だった。 だが、
「それなら俺、先輩の勉強手伝うよ。自分が分かる範囲はもちろん、三年の範囲も予習を兼ねて俺も勉強したいから。いつでも言って。先輩が一人で勉強するより捗るよ、きっと。」
篝はこの話題を一部だけ切り取って、都合のいいように話を逸らす。 簡単に頷かないだろうって思っていたけど、やはり予想通りの流れ。 やんわりと終わらせたかったが、これ以上甘く見られたら話が長くなるだけ。 ここは心を鬼にして、オレはもう一度別れを口にする。
「あのさ。オレ、言ったよな?お前が気に食わなかったら別れるって。お前、それでいいって頷いたよな?」
「・・・・・・・・・。」
今度は話を逸らさせない。 いつでもこんな日が来ていいようにさせて、篝はそれでいいって言ったんだ。 だから今度ばかりは篝に拒否権はないはずだ。 なのに、
「・・・理由は?」
「え。」
「ちゃんとした理由言ってくれない?俺、それだけじゃ納得できないから。」
イエスでもなければ、ノーでもなく。
「お前、往生際悪いんだな。別れたいから別れたいって言ってんだ。それでいいって言ったんだから、さっさと頷けよ。」
「先輩ちょっと一方的すぎない?それだけじゃあ俺、納得もできないし頷けないよ。」
あー言えば、こー言い返してくる篝。 いつものようにナメられているのだろうか。 いい加減それがムカついて、それならそれでこっちだって、そろそろ奥の手を使わせてもらうまで。
「だったらお前こそ何を企んでるのか吐けよ!金か?ゲームか?どうせ仲の良い友達と賭けてオレで遊んでたんだろ!?」
始めから怪しかったコイツの言動。 今まで一緒にいて何を企んでいうるのか見抜けなかったのは悔しいが、間違いなく何かは企んでいるに違いない。 それを奥の手として使い、篝の本性をついに突き止めようとした。
「・・・・・・・・・。」
けど、奴は何も答えなかった。 答えられないのかもしれないが、それはそれで一つの答えとなり決定的な理由へ繋げられる。
「そんなことを企んでる野郎と三ヶ月も付き合い切れるわけないだろ?そういうわけでお前とは破綻。今後一切、オレに関わって来るな。」
「・・・・・・・・・。」
やっぱり何か企んでいやがったか・・・。 そんな篝の答えがオレの気持ちに残りそうな未練を失くさせ、この関係を一方的に絶つ。
「話はそれだけだから。じゃあな。」
それを最後に教室を出ようとした時、
「待って先輩。」
「!」
黙ってたはずの篝が、そんなオレの腕を掴む。
|