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CRO×QUAR
夢の続きを歩き出す彼らの物語
[アイドルグループ仲良しコメディ]


登場人物紹介
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Act.62 Birthday of Achi(後編)(1/3)
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祝った日のその夜に

エーチの誕生日を祝うキィのカレー作り計画は、大成功?にて無事にお開き。
クロスカルテットの今日の活動は全てカレー一色だったけど、大きな仕事がまだないから、スケジュール上は特に何も問題なかった。

(キィちゃんのカレーは確かに美味かったけど、取り寄せた材料が全て最高級で俺もビックリしたな〜。すごく貴重なカレー食べさせてもらった気分。)

そんな1日だった志摩も今日の仕事が終わり、ようやく自宅へと帰って来る。
その時、自分が住むアパートの部屋の前に1人の人影が。

(あれ?誰かいる???)

近付くと共にそれは誰なのかハッキリと分かったが、そのシルエットに驚きが隠せずに思わず大きな声を出す。

「え?エーチ!?」

「あ・・・。」

だって志摩の部屋の前にいたのは、本日の主役であるエーチだったから。



なぜここに?

バイバイと事務所で別れてから数時間経っているが、その数時間ぶりに再会した2人だった。

「おかえりなさい、志摩ちゃん。」

「ただいまーじゃなくて。え?え?え?どうしたの?エーチ、こんな時間に。」

エーチもみんなと一緒に帰ったはずの数時間前。
だけどあれから家には帰ってなかったのか。
部屋の前にいたエーチは鞄や荷物を抱えたままで、服装すら何も変わってない。
チャームポイントであるアホ毛もよく見ると、いつもの元気はなく、しおしおに枯れてしまっている。

「あはははは・・・。ごめんね、志摩ちゃん。突然こんな時間に・・・。」

今日は彼の誕生日だというのに、いったい何があったのだろう。
それにいつからここにいたのだろう。

「と、とりあえず一旦、部屋に入って。こんな時間に外で話し続けるのもアレだから。」



アイドル除けば、ただの男子高校生

不穏を少しでも感じれば、このまま放っておくことが出来なかった志摩。

「いらっしゃい、エーチ。」

「・・・お邪魔します。」

エーチを自分の部屋に招き入れ、改めて事情を問う。

「ビックリしたよ。さっきみんなと一緒に帰ってったはずのエーチが、まさか俺んちの前にいたから。」

「ごめんね、志摩ちゃん。突然こんな時間に志摩ちゃん家にいて、驚かせちゃって。・・・本当に、ごめんなさい。」

「謝らなくていいけど、でも本当にどうしたの?」

エーチもアイドルの1人だからとか。
自分が事務所の社員だからとかじゃない。
夜も遅い時間になのに男子高校生が、家に帰ってないと知れば心配に思うのも無理はない。



2人だけの秘密事

「誰にも言わないでね、志摩ちゃん。」

「ああ。」

エーチが自分の家に帰らないで、志摩の部屋の前にいた理由。
それは、

「オレ、家の鍵、いつも失くさないよう筆箱の中にしまってるんだけど。鞄の中どこ探しても筆箱なくて、学校に置き忘れてきたみたいで、家に帰れなくなっちゃって・・・。」

うっかりからきたエーチによる痛恨なミス。
家の鍵が入った筆箱を最後に見たのは自分の教室。
鞄にしまい忘れて、そのまま机の中に置きっぱなしにしてしまったそうだ。
思い出して学校まで取りに行ったけど、校門は既に施錠された後で中に入れず、それで自分ちに帰れなくなったと、浮かない表情で話してくれた。

「始めはエヴァんちに行こうとしてたんだけど、別れたばっかだったからちょっと行きづらくて。どうしようか考えながら歩き回ってたら、志摩ちゃんが居るアパートの前を通りかかって、それで・・・。」

「そうだったのか。」

それは思ってた不穏と自分の妄想が一致してなくてなにより。家の鍵を置き忘れるのはあまり良くないけれど、違っていてよかったと志摩はホッとする。

「お願い志摩ちゃん、このことは本当に誰にも言わないでね。こんなアホなうっかり、恥ずかしくて言うに言えないし知られたくないから。」



知らなかったから

しかしその安堵は束の間だった。

「あれ?じゃあ家の人は?まだ帰って来てないの?」

「うん。お母さんは夜、働いてる人だから。だから帰ってくるのはいつも翌朝ぐらいで。」

「お父さんも夜勤してる人?」

『無知は罪』というのは、とても厳しい言葉。
それをこの身で覚えるように、志摩もまだ知らなかったのだ。

「ううん。オレんち、お父さんいないよ。いるのはお母さんだけだから。」

「え・・・。」

「オレのお父さん、ずっと前に。オレが幼かった頃に亡くなってるから。」

エーチの父親は亡くなっていることを。
知らなかったせいで漂う空気は気まずく、遅い後悔に包まれる。

「「・・・・・・・・・。」」



謝ることじゃない

なんてことをエーチに言わせてしまったのだろう。
自分の失言を、直ぐにでも頭を下げて謝った志摩。

「ご・・・、ごめん。知らなかったとはいえ、エーチに失礼なこと言わせて。」

「ううん、志摩ちゃんが謝ることなんて何もないよ。まだ志摩ちゃんには言ったことないし。オレの方こそ、なんかごめんなさい。」

「いやいやいや。エーチこそ謝らないで。エーチは何も悪くないから。」

「それなら志摩ちゃんだって同じだよ。謝ることじゃないから謝らないで。」

するとエーチは、慌てて『気にしないで』と言い返してきた。

「こういう話って、難しいよね。どうしても、その、明るい話題じゃないから・・・。でも大丈夫だよ、志摩ちゃん。本当に大丈夫だから気にしないで。」



エーチの家族構成

けどそれがきっかけで初めて知ったエーチの家族構成。
父親はエーチが幼い頃に病気で亡くし、それからはずっと母親と2人きり。
だからエーチのお母さんは2人分の生活費を稼ぐため、夜に仕事を入れているそうだ。

「オレ自身のことだから。いつかは志摩ちゃんにも言わないとって思ってたんだけど、どうしても言えるタイミングが掴めなくて。」

それは明かさないつもりはなかったが、言えなかった話題。
知らなければ、知らないまま。
言わなければ、言わないまま。
そのまま何も変わらず、ただただ時間が流れていくだけ。
きっかけがなければ知ることも言うことも出来なかっただろう。

「そう、だよな。エーチからしても言い出しづらい話だろうし。」

「うん・・・。」

エーチではなく、東森英一という1人の男の子を。

「でも志摩ちゃんに話せてよかった。いつかは言わなくちゃって、ずっと思ってたから。」



泊まっていって

この話題を戻しても戻さなくても、エーチが家に帰れない事実は変えられない。

「よしっ。じゃあエーチ、今日はこのまま俺んちに泊まっていきなよ。」

「え!?」

このまま野宿なんて絶対にさせられない。
だから志摩は漂う気まずかった空気を流すように、ちょっと勢いを付けてエーチを誘う。

「そんなの志摩ちゃんに悪いよ。完全にオレ、急だし。」

「急でも全然、エーチならいいよ。むしろ恥を偲んで俺んちを頼ってくれてありがとう。」

「いや、それは偶然っていうか。たまたまっていうか。志摩ちゃんちのアパートの前を、通りかかったから思い出しただけで。」

「けど俺が帰ってくるまで、俺んちの前で俺を待ってたのは事実だよね。」

「あ、う、う・・・。それは・・・。」

すると彼は頷くにも戸惑うの色をチラつかせてきたが、こちらは何を言われても断らせるつもりはない。

「困った時はお互い様っていう言葉もあるわけだし、遠慮しないで。エーチなら本当、歓迎するから。」

「・・・・・・ありがとう、志摩ちゃん。お言葉に甘えて、今夜一晩だけよろしくお願いします。」

そんな志摩の誘いに、ようやく頷いてくれたエーチはこのまま一晩だけ泊まっていくこととなった。



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