3日ぶりに登校する朝。 朝食を済ませ身支度を整えた後、自分の頬をパチンっと叩いて気合いを入れた俺。
「・・・よし。」
まだ喉に違和感あるけど、熱とかはないから、もう大丈夫。特に問題ないだろう。 それよりも学校をたった丸1日休んだだけでも授業に遅れがその分生じるのだ。それが今回は3日分もあるのだから、一刻も速く取り戻さないと。
「行ってきます。」
そうしていつもの登校時間に家を出て、最寄のバス停からバスに乗り、学校を目指す。 この時間帯は通勤通学で車内は毎日とても混雑している。 座席に座れるなんて奇跡中の奇跡。 つり革を掴めるだけでもありがたいお話。 俺はそんな車内でも広げた参考書に集中して、それ以外のことは何も考えないようにしていた。
「おっはよー!浬くんっ!」
「・・・・・・・・・。」
学校から1番近いバス停で降りると、さっそく及川がお出まし。 満面の笑顔で、バスから降りたての俺をお出迎え。
「あー、よかったー。今日という今日こそ浬くんと会えて。3日間ずっと既読すら付かなかったから心配だったんだよ。風邪、大丈夫だった?」
朝からベラベラベラベラと、鬱陶しい奴の声が耳に障る。 しかもいつからそこで待ち伏せてたのか。 色々と疑問点はあるが、正直どうでもいい疑問。
「おはよう、春希くん。」
「へっ!?」
「ごめんね。俺の携帯、壊れて連絡すら付けられない状態になって、余計な心配までかけて・・・。」
「ううん、いいのいいの。それより今ー・・・。」
「それじゃあ一緒に学校行こうか?春希くん。」
だからそれには構わず、参考書を鞄にしまって、彼の隣に並んで学校を目指して歩く。
「やっぱり僕の聞き間違いじゃない!」
「だってずっと呼んでほしいって言ってたから。・・・駄目、だったかな?」
「ううん、全然いいよ!でも出来れば〜・・・、ハルくんって親しみ込めて呼んでほしいな。」
「及川くん、あんまりのんびりしてたら遅刻するよ。」
「わーッ!調子乗ってごめんなさいでした!!春希くんで全然大、大、大歓迎だから、及川くんに戻さないで〜!!」
それでも中身のない会話は、今の自分にとって正直ありがたい。 話をしてる間は、何も考えずにいられたから。
それから学校に到着して教室に入ると、大瀬は俺らよりも一足先に登校していた模様。 けど寝ているのだろうか。自分の席でうつ伏せていていた。 そんな大瀬が気になって、及川に尋ねたが、
「あぁ、浬くん。クソ臣なら、放っといていいよ。一昨日からずっとそんな調子だから。」
「そうなの?・・・この間のこと、お礼言いたかったんだけどな。」
「いいから、いいから。気にすることないから放っときな。」
「???」
「放っとけ」の一点張り。 彼もあまり事情を詳しく知らないのだろうか。 大瀬もいつもなら『クソ臣』に反応するのに、今は無反応。 うつ伏せたままピクリとも動かなかった。
そして本鈴が鳴って、いつものように授業が始まる。 各担当教科の先生が授業を開始する前に、3日ぶりに俺がいることに気付いて復活のお祝いを簡単にしてくれた。 もちろんそれは数学の授業だって同じ。 神崎先生も他の先生たちと同じように、俺に気付く。
「錦くん、3日ぶりですね。もう具合は大丈夫ですか?」
「はい、おかげ様で。神崎先生にも、ご心配おかけしてすみませんでした。」
だからこっちも他の先生と同じように返した。 彼は先生で、俺は生徒。 それ以外のことは、もう何もないのだから。
ー・・・が。
それは、それ。 これは、これ。
「・・・・・・・・・っ。」
自分が休んでいる間に、数学の授業内容が次の章へと進んでいた。 数学って知ってます? 1回でも分からないが生まれると、全然理解が追いつけられなくなることを。 他の教科でも同じことを言えるけど、数学は特にそれが生まれると厄介。 それを今日だけの授業で思い知った俺。
(3日ぶりのツケが回ってきたって感じだな・・・。)
定期テストだって、もうじきなんだ。 3日分の遅れは絶対に取り替えすことを、心に強く誓う。
こうして3日ぶりだった学校も無事に終わり、それからも平常通りに。 まるで何事もなかったかのように、今まで通り錦 浬としての生活を取り戻す。
『・・・浬くん。元気出してね?(´・_・`)』
その日の最後に及川が気になることを。変な顔文字付きのメッセージを送信してきたが、俺は大して気に求めなかった。
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