朝のホームルームが終わると、そのまま一限目のロングホームルームが始まった。 席替えのやり方は至ってシンプル。 男女に分けられた籤引きを引き、その引いた番号と黒板に書かれてた番号が一致した場所に自分の席を移動させるだけ。
「11・・・。」
窓側の一番後ろ。 この期に及んで俺は幸運を引いたようだ。 なんて絶好な隅の位置なんだろう。 このときばかりは流石の俺も御呪いの効果が外れた子ばかりでよかった・・・、とホッとする。 クラス全員籤を引き終わると、全員一斉に席を移動させていく。
「ん。」
「・・・え。」
すると自分の前の席に、すごく見覚えのある野郎の姿が。
「なんだ。後ろ浬か。」
(・・・・・・・・・・・・。)
そこに移動してきたのは、なんとオールバック野郎の大瀬だったのだ。 よりにもよって大瀬。 よりにもよって大瀬・・・。 大事なことなので二回。 よく周りを見てみると及川の位置も以前と変わりなく近いまま。 あぁ。流石にそこまで幸運は続かないよね。 ぜひともそこまで続いてほしかったと心底思う俺。
「浬。オレと位置、換わってもらっていいか?」
「・・・どうして?」
「なんとなく。」
(それで理由になるとでも思ってるのか。)
「別にいいけど・・・。」
俺を見て何を企んだのか。 彼の要求通りに席の位置を交換させられる。 前の席から後ろの席になった大瀬。
「うっし。これで浬を、いつでも監視できるな。」
「か、監視!?」
「オレの藍子ちゃんや他の女子生徒をスナック感覚で手を出さないよう出せないよう、ここで監視しててやるからな。覚悟しとけよ。」
(・・・・・・・・・・・・。)
ああ。ですよね。 そんなことだろうと思ったよ。 大瀬の企みは単純で分かりやすい。 分かりやすいからこそ『なんとなく』の理由に、彼の彼女関連のことが絡んでいると読めた。
(バカなのかな。バカなんだろうな。)
大瀬の彼女に手を出そうとした記憶も。 手を出そうとした陰謀も。 かれこれ一度もないのに降りかかる罪の粉。 彼はいつになったら、それを分かってくれるのだろう。
「はぁ・・・。」
常に真後ろから感じさせられる厳しい目付きの視線。 落ち着かない。 これは非常に落ち着かない。落ち着けない。 次の席替えまで、こんな状態が毎日続くのだろうか・・・。 疲れた溜息は重く。 怠くさせる頭痛はガンガン響いて止まらないまま。 こうして一限目のロングホームルームは終了したのだった。
「あはははっ。災難だったね、浬くん。まさかのくそおみが後ろの席になるなんて。僕としては御呪いが当たってラッキーだったけど。」
「誰がくそおみだ!!」
「お前だよ、お前。」
授業終了後、さっそくコッチにやってきた及川。 ガヤガヤと周りに負けないぐらい騒がしくなる二人。
(あー・・・、煩い。)
相変わらず飽きないやり取りをしていて、耳タコ状態。 こんなところでやらないで、どこか他所でやってほしいものだ。
「浬?」
「浬くん?」
(ッ!)
「な、なに?」
そんなウンザリしていた思いに我を取られていたのか。 及川と大瀬の二人から呼ばれ、ハッと取り戻す。 しまった、しまった。 頭が痛くて二人の話をろくに聞いていなかった。・・・・・・聞いてないのはいつものことだけど。
「浬。お前、顔色少し青くないか?」
「大丈夫?浬くん具合悪いなら早めに保健室行くといいよ。」
「大丈夫、大丈夫だよ。ちょっと頭痛するだけだから。」
(主に君らが原因で。)
本当は少ししんどいけれど、直に次の授業が始まるんだ。 そうすれば教室も、この二人も静かになるから落ち着くだろう。 もうじき試験だって近いんだ。 こんな少し調子が悪いだけで後れを取るわけにはいかない。
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