「おっはよ〜〜〜!浬く〜〜〜〜〜ぅん!!!」
「!?!?!?」
人の腰にダイレクトタックルを、勢いよく噛ましてきた栗毛野郎。 ドーンッときたものだから俺も耐えられなくて、そのままドーンッと下駄箱に激突。 頭と腰。 どちらの痛みのが強いのだろう。 分からないまま俺は撃沈し、その場で崩れてしまう。
「ごめんね、ごめんね浬くん!昨日は本当にごめんね〜!」
「・・・。」
「あれから僕ものすごく反省したんだ。すぐにでもメッセージ送って謝ろうって思ったんだけど、やっぱり直接謝りたくて。」
「・・・・・・。」
タックルしてきた及川は、そのまま人の背に乗っかり。 ギュ〜〜〜ッと人の体に抱きついて必死に謝ってくる。
(こ、腰が!腰が・・・っ!!)
あまりの痛さに抵抗できず。 及川をそのままにさせたまま静かな怒りを心に宿す。 はたから見てる大瀬も憐んでいるというか、同情しているのか。 そんなような表情でこっちを見ていて、小さな声で「気の毒に」と呟く。
「ごめんね。本当にごめんね。」
「あ、いや、うん。もう、気に、して、ない、から。」
(腰を締めるの止めて・・・。腰に手を回すの止めめめめめめ。)
「本当!?許してくれる?」
「許す!許すも何も・・・ッ・・・、あれは俺だって悪かったし。」
抱きついてくる及川を剥がしつつ、ゆっくりと体を起こす。 するとー・・。
「本当!?よかったぁ。じゃあ昨日悪いことしちゃったお詫び。」
「へっ!?」
「え・・・。」
大瀬以外にも周りには女子生徒も男子生徒もいるというのに。 本人以外はそれすら気にしていない。 及川は人の隙をついてお詫びの印に、俺の唇に自分の唇を重ねてきたのだった。
「・・・!?」
何から何までの勢いに、頭が混乱してついていけない俺。
「ん゛ん゛ッ!?」
塞がられた口で言葉になってない悲鳴を上げる。
(し・・・、舌が・・・っ!)
こっちが腰が痛くて抵抗を強く出来ないことをいいことに、エスカレートしていく及川。 無理矢理、唇から舌を絡ませては吸ってきて、湿った音をワザと立たせている。
「んぐ・・・っ・・・ん。」
それを一番近くで見ていた大瀬。 彼の頭にも混乱が起きているのか。 止めに入ることもせず、口で繋がる二人の前で呆然としていた。
「・・・ぁ。」
「へへっ。舌、入れちゃった。」
やっと及川が俺の唇から離れると、まだ二人を繋いでいた透明な糸が瞬く間に落ちて床を汚す。 こんなことを周りにも見られて、顔が赤く染まる俺。 奪われた口を手の甲でおさえ、この気を静めようとした。
「どう?浬くん。これで少しは僕の本気、分かってくれた?」
「なッ!?」
「な〜んてね。冗談、冗談。キスなんて一つや二つ、おじいちゃんの国では挨拶としてもやるんだよ。もちろん男同士でも。だから本気にしちゃイ・ヤ。逆に僕が困っちゃうよ。」
「・・・っ。」
ああ。 人を殺めたくなる気持ちって、こういうときでも生まれるんだな。 ●ろしたい。 この栗毛マジで●ろしたい・・・。
「だ、大丈夫か、浬。」
「あ、うん、なんとか。」
及川が離れ解放された俺は腰を庇いながら、ゆっくりと立ち上がる。 そしてパンパンと砂埃を払い、次に口を拭う。
「及川、くん。」
「ん?なぁに?ひょっとして僕にときめいちゃった?」
調子こいてる及川に、すかさず俺は一言。
「1メートルぐらいでいいので、もう俺に近づかないでもらっていいですか。」
「ヘッ!?あれ?仲直りしたはずが、なんかひどくなってる!?」
素の俺が言ったのか。 仮面の俺が言ったのか。 それは自身でさえ分からない。 とにかく、もう及川には近づきたくない。近寄ってほしくない。 そんな気持ちで心が埋め尽くされる。
「わーんっ。そんなこと言わないでよ〜。僕と浬くんの仲じゃない。」
「1メートル以上、近づかないで下さい。」
ピーピー泣き喚いていたけれど、もう知らない。 心は冷たく、そして鬼に。 及川を突き放して、俺は一人先に教室へ向かおうとした。
「ん?」
「どうかしたの?大瀬くん。」
そのとき何かに気づいた大瀬。 けれど彼の視線の先には、誰もいない。 気になった俺は首を傾げている大瀬に尋ねてみる。
「あ、いや。さっきそこに誰かがー・・。」
「え。」
「・・・んなわけないっか。いや、オレの気のせいだ。気にしないでくれ。」
大瀬はいったい何を見たのだろう。 アッサリと自己解決されてしまい、大瀬も先に教室へと向かってしまう。 あんな風に気に掛かるそぶりを見せられたら、気にならないものも気になってくるじゃないか。
(本当になんだったんだろう。)
結局分からず仕舞いのまま、俺も(及川はもちろん置いてきぼりにして)教室へと向かったのだった。
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