翌日。 やっと神崎先生から解放された、俺は身も心もボロボロのまま自宅へと朝帰り。 時間が時間で寝ていられる隙もなく、シャワーを浴びて、そのまま学校へ登校。 『優等生』という肩書きは、こういうときすごく不便だと思う。 『友達の家に泊まって勉強していた』と、定番の嘘をついた結果。仮病どころか遅刻さえも許してもらえないのだから。
(何が「私の相手はつとまりませんよ」だ。俺を好き勝手にしやがって。)
腰は痛いし。 目はチカチカするし。 体もなんだか怠い。 もちろんまだ神崎先生の感覚が離れてなく、あの日以上に最悪な状態だ。 今日は体育の授業がない分マシだけど、どこか途中でエスケープしたい気分。
「ん。」
「あ。」
学校へ着くと、昇降口の下駄箱にてオールバック野郎の大瀬と鉢合わせ。 彼も今、到着したばかりか。 スポーツ用の運動靴から上履きに履き替えていた。
「昨日、あれから大丈夫だったか?」
「え゛っ。」
「ほら。昨日の放課後、及川と何かあったんだろ?」
「あ・・・。」
昨日の放課後。 及川とのことを大瀬に言われて、ふと思い出す。
(決して忘れていたわけじゃないが。その色々あって、その・・・。)
ここに大瀬がいるってことは、及川も近くにいる可能性高いよな? 昨夜のこともあり、まだ彼とは顔を合わせたくない・・・。 俺は警戒に辺りを見渡し、及川の姿を探す。
「大瀬くん。及川くんは?」
「さあ?いないなら、今日はまだ来てないんじゃないのか。」
「そう、なんだ。及川くんと大瀬くんって、いつも一緒だから今も一緒かと思って。」
「あ?なんだ?そのイメージ。オレもアイツと、いつも一緒ってわけじゃないから。」
「そっか・・・。」
(この役立たず。)
どうやらまだいないようだ。 けれど及川と大瀬が、よく二人でつるんでる姿を見れば、いつも一緒じゃなくても、いつも一緒だと思うのは俺だけか?
「喧嘩か?」
大瀬はどうやら昨日のことが、気に掛かっているようだ。 いつもなら自分の彼女絡みのことで、突っ掛ってくるくせに。 いつにもなく俺を?及川を?心配していた。
「喧嘩なんて珍しいな。まあその相手が及川っていうだけあり、どうせ変なこと言われて揉めただけだろ?」
「あー・・うん。いちお多分そんなところ、かな。」
「だろうと思った。アイツが言うことあんまり気にしない方がいいぞ。オレもアイツが考えてること全然分かんねぇし。」
及川と大瀬は、普段から仲がいいと思っていたのは俺だけか? 二人は入試のとき隣同士の席になり、そこからなんとなく話すようになったと大瀬に聞かされて知る。 ゲームも時々一緒にするけれど、それは本当に時々。普段からそこまで一緒に遊んでるわけではないと教えられた。
「ま。そう及川のことを深く考えず、いつも通りでいいと思うぜ。」
(そういうモノなのか。)
そんな話を大瀬から聞き、何かが引っ掛かる感じが走る。 なんだろう。 それをどう言葉で表現していいのか分からない。 分からないんだけど、何かが引っ掛かる。
「だから気にすんなよ浬。及川も多分あの様子じゃ、そこまで気にしてないと思うし。」
「うん。・・・ん?」
けれどそれは大瀬に俺の名前を呼ばれた途端、掻き消されてしまう。 今コイツ、なんて? 俺のこと、なんて呼んだ???
「どうかしたか?浬、変な顔して。」
(・・・聞き間違えじゃない。)
「あ、いやー・・。大瀬くんって前から俺のこと、そう呼んでたっけ?」
突然、下の名前で呼ばれて拍子抜けた俺。
「あ?あー・・ダメだったか?及川も浬って普通に呼んでるから、てっきり。」
「及川くんは、もう好きに呼ばせてるっていうか。」
(何度言っても直さないから諦めたというか。)
「それに前言ったろ?お前も好きなようにオレを呼んでいいって。だからオレもそうさせてもらっただけだ。これなら互いに公平だろ浬。」
大瀬も及川と同じで、我が道を好きなように歩くタイプのようだ。 そうニッコリとした笑顔で言われたら、ダメだと言っても直す気がないように思えた。 及川の件が先にあったからな。 どうせコイツも同じで元に戻さないだろう。
(直せと言った分だけ疲れそうだ。)
「・・・好きにしていいです。もう。」
「お。じゃあ問題ないな。」
何かを言う前に始めから諦めた俺。 はぁ・・・と溜息を吐きながら、革靴から上履きへと履き替える。 そのとき、
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