神崎先生に会った帰り道。 そのまま自ら車に乗り込んで、ホイホイどこかに連れ込まれて、それから・・・。
「〜〜〜・・・っ。」
思い出した俺は急に恥ずかしくなって、ゴソッと体を寝返り丸くさせる。
「!?」
するとすぐ隣にいた体とぶつかり。 見上げるとそこには神崎先生が一緒に横になっていた。
「やっと起きましたね浬くん。今ちょうど夜の8時を迎えるところですよ。」
「ここ・・・、どこですか?」
神崎先生の顔を見て少しホッとする自分。 けれどここがどこなのか分からない。 だからいつもの口調で、神崎先生を睨みながら尋ねる。
「どこって、私の自宅ですけど?」
「なッ!?」
平然と返ってきた答え。 それを聞いた俺は、慌てて寝ていた体を起こす。
(何を考えてるんだ、この人!?)
「ご心配しなくても妻は地元の同窓会に行って、泊まってくるので帰ってきません。だから私、今日は一人です。」
「・・・ッ・・・。」
それでも流石に、いつまでもここに居座るわけにはいかない。 体を起こした俺は不機嫌のまま、手の平を神崎先生に差し出す。
「服。」
「はい?」
「制服返して下さい。明日も学校あるから帰ります。」
「つい先ほど干したばかりですから、まだ暫くかえせられませんね。・・・それに汚しちゃいましたし。」
そんな俺と比べて冷静に落ち着いている神崎先生。 クスクスと笑う顔。 久しぶりに見る笑顔だというのに、警戒心が解けない。 何か企んでいて本当は裏があるんじゃないかと、疑ってしまう。
(あ・・・。)
俺のスマホは!? 辺りを見渡したが、周囲にスマホらしきものがどこにも見当たらない。 優等生の錦 浬が使っているのも。 あの写真が保存されているもう一つのも。
「先に言っておきますけど『あの写真』。俺のスマホから消しても無駄ですからね。データは別のにもとってるので。」
神崎先生の企みを先読みした俺。 何かを言われる前に、そう簡単に俺からは逃れられないことを伝えた。 それでも顔色一つ変えない余裕の神崎先生。 ベッドの隣にあるサイドボードに手を伸ばし、そこから二つのスマホを取る。
「そんな真似、致しませんよ。そんなことだろうと予想付きましたし。」
そしてアッサリと俺の元へと返してきたのだ。
「それでも疑うのであれば、まずはご自分の目で確かめて下さい。浬くんが眠っていた間も何もしていませんから。」
なんだろう。 本当になんなんだろう。 この人が何を考え、何を企んでいるのか分からない。
(とにかく帰ろう。)
明日も学校は普通にあるんだ。 しかもこんな時間なのだから帰らないと、家の人に余計な心配を掛けてしまう。 だから俺は、まだまだ不機嫌のまま再びこの手の平を神崎先生に差し出す。
「服。」
「はい?」
「何か服貸して下さい。このままじゃ帰れないですし風邪引く。ちゃんと洗って返しますから。」
「そう、ですね。その格好で外に出歩くわけにはいきませんし。」
「いいから。笑ってないで、さっさと貸して下さい。」
するとゆっくり自分の体を起こした神崎先生はクスッと小笑い。 顔は笑っているのに、冷たい表情で俺にこう言う。
「浬くん、もしかして通じてませんか?」
「え?」
「私は貴方をここから帰す気はない、と。先ほどから遠回して言っているのですが。」
「!!」
それを聞いた俺は体がビクつき、初めて神崎先生に恐怖心が走る。
「さっきも言いましたよね、私。かえせられない、と。」
「・・・ぁ。」
手の平からそのまま腕へ。 この腕を取られると、このままの格好で神崎先生の腕に抱かれた。 ドキドキする鼓動と恐怖感が俺の中で混ざり合う。
「ま、ちょ、ちょっと待った!」
この二つの感情は神崎を拒ませ、俺は抱かれる腕から離れようとした。 身の危険を感じる警告が体中に巡る。 流されてはダメだ。 このまま流されてしまったら、今度は俺の身がもたない。
「さすがにこれ以上は!」
「あんな強情で私を襲った、あの時の威勢はどこへいってしまったのです?」
「だっ、だってあれは!!」
けれど神崎先生は俺を離そうとしなかった。 再びベッドの上に押し倒して、そのまま人の上に乗っかり首筋に口づけを落とす。
「ん・・・!」
簡単で優しく、痕を残させない。 次に耳元まで舌先でなぞって、俺をゾクゾクと震わす。
「さぁ。先ほど返したスマホでご自宅に連絡入れて下さい。時間が時間ですし、さっさとしないと親御さんに余計な心配かけてしまいますよ。」
「かえ・・・、俺はもう帰・・・・・・ッ!!」
「だから今日は帰さないと。何度も言ってるじゃないですか。」
「・・・っ・・・、親に嘘つけってことかよ?」
そこで囁かれる神崎先生の声。
「無理!もう・・・ッ・・・無理だから!!」
息を掛けられただけで俺は力が抜け、この抵抗が無駄だと分かっていても暴れてしまう。
「浬くん?これでついてこられないようなら、私の相手はつとまりませんよ。」
「・・・!」
「だから今日は、私についてきて下さいね。・・・最後の最後まで。」
これが神崎先生の本気? 壊されそうになってるのは体?心? もう、何も分からない。
「神崎先生・・・ッ・・・!」
愛してほしいんです。 この一瞬だけでも。 神崎先生に愛されたい。 一瞬だけでいいから。 その思いだけで俺は、神崎先生に必死にしがみ付く。 親に嘘をついてまで、俺は神崎先生を選んだのだった。
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