雨が降っていた帰り道。 持っていた傘は風に飛ばされて地面に落ちて壊れてしまい、使い物にならなくなってしまった。 それでも雨は容赦なく降り続け、あの薄暗い雨雲から雷が鳴っている。 本来なら学校から一番近い最寄りのバス停から帰宅するのだが、こんなに濡れてしまってはバスに乗れない。 だからそのまま歩いて帰っていると、
「浬くん!?」
「!」
後方から聞き覚えある声が俺を呼び止める。 振り向くとそこには一台の車が止まっていて、中から神崎先生が現れた。
「何しているんですか!?こんな雨の中、傘もささないで!」
「・・・神崎、先生?」
「こんなに濡れて風邪でも引いたら・・・っ。」
神崎先生はやっぱり優しい人だった。 こんな時にでも、雨で濡れた俺を気遣ってくれている。 持っていた一本しかない傘を俺にさし、自分のことを構ってなくて自分のスーツを雨で汚していく。 そんな貴方の優しさが何よりも酷く、この心を酷く傷付けられる。
「浬くん?」
俺の様子に戸惑っている神崎先生。 雨で濡れているから誤魔化せると思っていたのに、頬を伝って零れた一滴を見られてしまう。
「・・・・・・。」
俺は神崎先生のことが好きでした。 ただただ本当に好きでした。 けれどその人を脅してまで縛り付けることしかできなくて。 酷いことばかりしかできなくて。 結局そんなことしても本当に欲しいモノは手に入らないって分かっていたのに。 この人を好きでいることが苦しい・・・。 苦しくて、それでもまだ好きでいる俺がここにいる。 俺はこの時、初めて自分の気持ちに気がついた。 もう自分一人ではどうしようも出来ないぐらい、この人を本気で愛していたことをー・・。
「神崎・・・せんせ・・・っ・・・。」
ゴロゴロと激しい音を鳴らす雷。 光から音への距離が近くなっていき、強さが増していく。 それとともに雨も強くなってきて。 先ほどよりも強く地面を叩き付けていた。
「ーー・・・・・・。」
そしてもう一度、空がピカッと瞬く光り、大きな雷が鳴った途端。
「!!」
その一瞬、何が起きたのか分からなかった。
(・・・・・・え?)
神崎先生の傘まで地に落ちていて。 あっという間に二人とも雨に濡れてしまう。
「神崎・・・先生・・・?」
こんなときに。 こんな場所で。 こんな場面を。 誰かに見られたら後の言い訳が大変なのに。 俺は神崎先生の腕の中にいて、抱かれていた。
「浬、くん。」
神崎先生の声がすぐ傍に。 雨は冷たいのに、抱かれた体は先生の体温で温かい。
「このまま・・・。何も言わずに、このまま私の車へ。」
初めて神崎先生に誘われた言葉。 すぐ傍で耳元に囁かれる。 さっきまで苦しいほど痛かった胸が、ドキドキと高鳴っていて脈打ちを早くさせていた。
「・・・・・・。」
そして言われるがままに。 余計な抵抗すら見せず、そのまま何も語らないで黙ったまま従い。 抱かれた腕から離れ神崎先生の車に乗り込んだ。 何に気を遣ったのか。 誰のことを思ったのか。 助手席ではなく後部座席を選んで。
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