「待って!浬くん!!」
「・・・ッ・・・。」
教室から飛び出した俺。 呼び止める及川を振り切ってまで、どこかへと走り出す。
「どわっ!?」
「!」
前をろくに見ないで廊下を曲がった途端。 そこにはジャージ姿の大瀬がいて、ドンッと軽くぶつかる。
「あー、ビックリした。なんだ錦か。どうし。」
「・・・ごめん。」
「は?え?あ?錦!?」
けれどそんな大瀬にも一言謝り、俺はそのまま走ってどこかに行ってしまった。
「な、なんだ???」
いったい何があったのか。 一瞬だけ見られた俺の表情。 けれどそれだけでは訳が分からず、大瀬はポリポリ頭を掻きながら自分の教室へと向かう。 するとそこには、まだ及川が残っていて、
「あーあ、逃がしちゃった。」
「お前の仕業か。」
彼の残念そうな顔に、大瀬は俺と及川の間で何かがあったのだと、なんとなくで把握した。
「あれ?大瀬いたの?もしかしてずっと教室の外から盗み聞きしてたとか?」
「アホ!部活に行ってたに決まってんだろ。忘れ物したから取りに来ただけだ。そしたらそこで錦とぶつかりかけて・・・。」
「なんだぁ。聞いてたわけじゃないんだ。」
俺がいなくなった教室で話し合う二人。 及川は俺の席の机に座り、そのまま自分のスマホをいじりだす。
「錦と何かあったのか?」
「別に。ご期待に添えられるほどのことは、何もなかったよ。」
そんな及川の様子が気にかかる大瀬。 彼の話を聞きながら、詳しい事情を聞こうとした。
「僕ね、ずっと思ってたんだ。」
「え?」
「叩いてもホコリが出ない人なんて、現実でいるわけないって。だからね少し得た情報で浬くんに、ちょっとちょっかい出してみたんだ。なんとなく前から自分と同じ匂いを感じてたから。」
「同じ匂い?」
「蛇が出るかな〜って思ったんだけど、何も出なかったよ。・・・やっぱり僕と同じだったんだね浬くん。」
けれど及川の口から出る言葉は、遠回しのことばかり。 結局『何かがあった』こと以外は分からない。 だから、もう少しだけ詳しく訊こうとしたのだが、
「どういうことだ???」
「・・・っ、お前は幸せでよかったなって言ってるだけだよ。」
キッと強く睨まれてしまう。 これ以上、及川は話すつもりはないようだ。
「最近やたら錦に懐いてたから、何かしら企んでいたのは見てて分かったけどー・・、ほどほどにしろよ?」
「分かってるよ〜。あとでちゃんと謝るし。」
けれどそれ以外に気になっていたことを一つ。 大瀬は部活に戻る前に、それを及川に尋ねてみた。
「ところで及川って、誰かに教わるほど数学苦手だったか?」
「ん〜。」
すると及川は自分のスマホをいじるのやめて。 大瀬を見てニッコリとした笑顔で、こう答えたのだった。
「浬くんには内緒だよ。」
『ねぇ、浬くん。』
『キミ、本当は分かってるんだよね。』
教室から飛び出した俺は、そのまま学校から下校をしていた。 今日は雨が降ると分かっていたから予め傘を持ってきており、強く降る雨でもなんとか帰れそう。 けれど・・・。
「あ。」
突然吹かれた強い風に傘を持って行かれてしまう。 手から離れた傘。 それがないと雨に濡れてしまうのに・・・。 俺は取り返すことをせず、ただ呆然と見送る。 飛んで行ってしまった傘は、そのまま地面に強く叩き付けられてしまった。
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