明人先輩のおかげで自分の答えが決まったけど、ラブレターの差出人は結局、誰なのか分からないまま。 なので演劇部の練習が終了後、俺は差出人が待つ渡り廊下へ向かい、隅からコッソリ隠れて見ていた。 明人先輩と同じぐらい無条件に信用出来て、いつも頼りにさせてもらってる奴を引き連れて。
「相変わらず演劇部は運動部並みにハードだね。大丈夫?鳴。」
「グラウンド10周+おかわりは・・・ぜーぜーっ。流石に辛かった。輝夜部長マジパない・・・っ・・・。」
「ところで鳴。なんで僕まで連れて来られなくちゃいけないの?こっちはまだ思いっきり部活中なんだけど。」
「いっ、いいだろ!俺だって1人じゃ・・・ぜーぜーっ、心細いの!空だって俺のこと・・・はあはあ・・・心配じゃないのか!?」
「とりあえず息落ち着かせて。呼吸ぐらい整えて。気になってそっちが仕方なくなってくるから。」
その野郎というのは、羽崎 空(はさき そら)。 陸上部に所属しており、種目は走り高跳びの選手。 青ノ葉2年の同級生で、俺とは中学からの付き合いがあるから、今も何かと面倒をみてくれている。 ので今回のラブレターのことも話し、道連れるかのように関わらせて、明人先輩の次だから2人目として頼ってみることに。
「鳴にラブレター・・・ね。」
「いいか?空。絶対俺から離れたりするなよ。断った先で何が起きるか。どんなモザイクされるか。めっちゃ怖いんだから。」
連れてきた理由はもちろん助っ人役の保険要員。 万が一のため。千や百でもその可能性は阻止したいから、部活中であった空を構わず連れ出して自分の傍にいさせた。
「え・・・。断る気でいるの?」
「ああ。」
「鳴が好きそうなイケメンくんでも?」
「あ、あぁ。」
「どうして?」
「あ?理由はなんでもいいだろ。俺にも色々あんの。」
するとその時、
「!」
俺や空以外の誰かが。 この渡り廊下へとやってくる足音がザッザッと聞こえてきた。
「誰か来たみたいだね。」
「しっ!黙って空。こっちに気付かれたら隠れて見てる意味なくなるだろ!」
「ご、ごめん。」
ここで待つと書いてあった文章通り、差出人が来たのだろう。 誰だ誰だ?いったい誰だなんだ? こんな手紙を俺に寄越した奴は? 正直見るのも怖い。知るのも怖い。 だけど勇気を振り絞って、恐る恐るその現実を目の当たりにした。 するとそこには、
「ーーー・・・。」
「・・・あれは、鬼頭くん?」
日焼けた肌は色黒く189もある高身長の男子生徒。 俺らと同級生で空と同じ陸上部に所属しているスポーツ特待の野郎、鬼頭 冥(きとう めい)がやって来ていたのだった。
「なんで彼がここに?」
差出人の正体を知り、改めてショックを受けた俺。
(え?俺、あの人からラブレター貰ったの!?)
確かに彼とは同級生だけどクラス一緒になったことないし、名前と顔しか知らない程度で、接点ないから話したことがない。 むしろ誰かと話してるとこなんてあまり見たことないし、何考えてるのか全然分からない。 得意不得意で関係を例えるなら、ちょっと苦手なタイプ。 果たして俺はそんな彼の告白を、ちゃんと断ることが出来るのだろうか。
つづく
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