まさか陸哉が、そんなことを想っていただんて微塵も思わなかった。 いつだってケラケラ笑って人をからかう奴が、こんなときに限って俺の目を見て、マジな顔をして言うから本気だって直ぐに分かった。
「だからなんだ。」
でもな、いくら相手が陸哉でも譲れないモノが俺にだってある。
「陸哉の賭けなんて俺には関係ない。そんな理由で空を奪われてたまるか!!」
「・・・・・・。」
だから、そう強く言い放った。 まだ誰にも伝えてない俺の気持ちと一緒に。 すると陸哉は、
「・・・そっちじゃないんだけど、このバカ。」
「は?今、何て言った?」
「鳴はつくづくバカだって言ったんだ。」
「こんなときにもバカって言うなよ。」
「バカだからバカだって言って何が悪い。むしろバカだと言ってくれることに感謝して、有りがたく思えよバーカ。」
「ひとセリフで何回もバカバカ言うなって。」
はぁーっと失礼承知な長い溜め息を吐く。 さっきまでマジだった奴がやれやれと呆れて、いつもの調子にすっかり元通り。 けど何かをそこで吹っ切ったようだ。
「・・・まぁ、最初から分かってたからハメたんだけどな。」
「何が?」
「教えてやるよ。バカな鳴はまだ気付いてないだろうから。」
そして陸哉が知っていて、俺が気付いてないことを教えてくれた。 最初の手紙の本当の意味を。
「オレらは前の日。野球部と陸上部の練習が終わった夜、鳴の下駄箱に置いたんだ。」
「エイプリルフールに俺を騙す為にだろ。」
「そうそう♪鳴を確かめるのにタイミングがちょうど良かったから。」
「何がちょうどいいだ、この野郎。」
「怒んなって鳴。そこが重要なんだから。」
俺が手紙に気付いたのは4月最初の1日の朝。 けど陸哉は目撃者が証言したとおり、空とはその前日にやったと供述。
「もう1回言ってやる。お前が気付いたのは4月1日の朝、けどオレらがやったのは3月31日の夜。」
「・・・それって?」
「つまり手紙の中身には、始めから嘘なんてないってこと。それでも騙したことには変わりないし、今さら言ったって言い訳にしかなんないけど空の為に、それは言わせてくれ。」
「!!」
最初の手紙も気付いたのは4月1日の朝。出されたのは3月31日の夜。 書かれたその内容に嘘なんてこれっぽっちもない。 エイプリルフールを利用して嘘と見せ掛けた本当のお話だと、教えてくれた。 っということは・・・。
「・・・2通目は?」
「2通目?」
「また2人でやったことじゃないのか?」
「知らね。あのあとオレはずっと先輩と打ち込んでたし。まあ謝った方がいいとは空に言われたけど。」
「・・・・・・・。」
しっかり騙された俺は、すっかり2人に裏切られた気分になっていた。 けど1通目も2通目も空が書いた文にはエイプリルフールじゃない。嘘なんてなかったということ。 始めから正真正銘のラブレターだったのだ。そこに陸哉の悪戯が加わったから乱れてしまったけれど。
「鳴があまりにも空を頼っていたから、空も本当のことを明かせれずにいたんだ。手紙の件も、お前への気持ちも。」
「え。」
「行ってやれ。・・・行けよ、空のところに。ちゃんと行って鳴は鳴で、鳴の気持ちを空に伝えてこい。」
そんな差出人に俺が出来ることは、ただひとつ。 手紙の返事をきちんと返すこと。 それが出された側の礼儀だ。 だから俺は学習時間終了間際に、手紙とか古典的な方法ではなく。今時の子らしくメッセージを送って一方的に空と待ち合わす。
『明日の朝、渡り廊下のとこに来い。待ってるから来てください。』
・・・と。 返事がこなかったけど既読はついていたから読んでるはず。 だから来てくれると信じて。 空なら来ると信じて。 翌日。俺は送った通り、差出人が待ち合わせた場所と同じ場所。朝から渡り廊下の所で、空が来るのを待った。 そして全てのことに決着を。 終止符をそこでつけさせよう・・・ー。
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