「部長こそなんで!?だって部活始まるまで、まだ時間あるでしょ?」
「そうだけど、鳴がいたから声掛けただけだよ。」
「!?」
うわわわわ。うわわわわ。 輝夜部長がそう仰るなら、今度こそ間違いない!? 思えば演劇では常に彼がヒロイン(女性)役。 だから台詞合わせの時、俺とでもいつだって真剣に取り組んでくれていた。 でもそれは演劇熱心だったからというだけではなく、真剣の意味を深ませていたとしたらピッタリカンカン!?
「そうだ。ねえ、鳴も俺に付き合ってよ。」
「え゛!?」
「うん。暇してるなら俺に付き合ってって。アキと部室で待ち合わせてるから、鳴も一緒に。」
「明人先輩と一緒に!?」
だけどこの人どんな軽い言い方で告白してるの!? っていうか、明人先輩とそんな関係だったの!? いや。『も』って言ってたから、それ以上の股をかけてる可能性だってある! さすが演劇部の女王!そんなところまで部下を支配しようとしているのか!?
「うん。これから一緒に俺らと行かない?」
「行・・・!?げほごほ。」
けど俺の答えは、輝夜部長でも決まっていた。
「ごめんなさい!俺、部長とはお付き合い出来ません!俺にも好きな子いるんで!」
「は?」
俺の好きな人は、この人ではないから。 部長も好きだし尊敬してるけれど、そういう好きじゃないし、いくらなんでもそこまで女王様に付き合え切れない。 だから頭を下げて謝った。が、
「鳴、何か勘違いしてない?」
「へ?」
「何で俺、鳴なんかにフラられた感じになってんのー・・・?地味にショックなんだけど。」
鬼頭同様、またもやそんなオチ。
「アキまで鳴の妄想に巻き込まないでよ。いくらなんでもアキとは、そういう関係じゃないよ?」
「え!?だって部長、今言ってましたよね!?明人先輩と二股?交際しろって!」
「言ってない言ってない。そもそも俺『と』じゃなくて、俺『に』だから。」
俺にラブレターを差し出したのは、輝夜部長ではなかった、というわけだ。 ややこしい言い方しやがって!
「もう。空くんもこのおバカに何か言ってやってー・・・。」
「・・・・・・。」
「空くん?」
しかし彼を見た途端、空も様子がおかしかった。 瞬きをパチパチと繰返して輝夜部長を見ている。 そして何を言い出すかと思えば、
「華澄先輩が男装してる・・・!?」
「「えっ。」」
今の輝夜部長の姿に、とても驚いていた。
「空くん。俺、こっちが素だから。男装じゃなくて素の状態だから。」
「え!?」
それもそのはず。今の輝夜部長の格好は普通の青ノ葉男子学生そのもの。 けれど演劇の公演が近付いてくると宣伝回りの為に女装をし出すお方。 だからその期間のインパクトがあまりにも強くて、通常時の姿ですら驚く人多発中。 同じ演劇部の部員として俺はどちらも見慣れていたけれど、演劇部じゃない空は多発側の人間になってしまっていたようだった。
「でも今日からまたそっちの格好になるけどね。部室でアキと待ち合わせてて、これから着替えるとこだったから。」
そして、それはそれ。これはこれとして、またもや俺は差出人を間違えてしまった。 しかも今度の相手が輝夜部長だけあって、向こうは間違えた俺を許す気ないみたい。よって、
「ってことだから、空くん。鳴を借りてってもいい?来週の歓迎会に向けて、俺の衣装合わせに人手欲しくて。」
「はい、どうぞ。」
「へ?」
「ありがとう空くん。っというわけで、ほら!行くよ鳴!」
「えぇぇ!?ちょっと俺への選択肢はないんですか!?俺に拒否権ないんですか!?」
「ない。」
輝夜部長を意味もなくフった罪は重いのか。 彼の女装チェンジのお手伝いに強制連行される俺。
「ああああああ!空待って!助けて空!」
「お手伝い頑張ってね鳴。」
「空ぁぁぁああああ!!!」
空に助けを求めたが、部長に差し出された挙げ句にバイバ〜イと見送られただけ。 強制連行された俺はズルズル引き摺られながら、部室へと運ぶこととなり、そのまま演劇部の活動時間は夜まで長引いてしまった。トホホ。 こうして結局、今日も本物の差出人に会うことができなかったのでした。
|