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青 ノ 葉
男子高校生たちのお緩い物語
[男子校全寮制][日常系青春コメディ]



#86 青ノ葉 林間録(後編)(2/5)
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ホントに呼んじゃダメ?

それを気にしてるのも、やっぱり犬飼だけ。
久野は他のことに気を取られているのか。
それとも自分にとってちょうど良かったからなのか。
自分の上に転けて倒れた犬飼を、とっ捕まえた上で再確認。

「ホントに・・・ダメ?」

「え。」

「俺も・・・冴って呼んじゃ。」

「・・・・・・ダメだっつってんだろ。」

どうしても犬飼をそう呼びたいのか。
答えがノーで、ダメだと言われ続けているのに、あまり諦めきれてない様子。
しかもそんなこと熱が帯びて赤らめた顔で言われ、犬飼は思わずたじたじと狼狽える。

「ダメ?ホントに・・・。」

「ー・・・・・・っ。好きにしろよ、もう。」

「うん・・・、分かった。じゃあそうする。」

結局、犬飼が折れる形となって、自分の主張を譲らなかった久野だった。

「ありがとう、冴。」

「お前・・・さ、若干だけどさ。熱で変におかしくなってないか?」

「多分・・・。なんかあんまりよく、分かんなくなってきた・・・。」



何もないところでの暖とり

けどそれなのに変わらない、とっ捕まった状況の犬飼。

「・・・おい。いつまでオレを捕まえてるつもりだ。お前に捕まってるせいで、オレ立てないんだけど。」

「だって離したら、冴・・・。その足で無理して動こうとするし、それに・・・。ちょっと寒くなってきたから。・・・だから何もなかったのなら、こうしてくれてた方が・・・助かる。」

「ば・・・っ、ばか!やめろって!離せってば!」

それどころか引き寄せられた腕に締められる羽目に遭う。
力は当然、久野のが上だから。
逃れようとしても簡単にいかず、こんな状態なのに身動きが出来ない。

「・・・あったかい。」

久野は呂律が回りにくくなって、意識も朦朧としているのだろう。
発する熱のせいで寒気があるからと、何にもなかった古小屋の中で、犬飼で暖をとって満足そうにしていた。



全ては久野のせい

そのせいで、犬飼はドキドキ高鳴る鼓動を抑えられない。

「もう・・・ホント。これ、全部。お前のせい・・・だからな。」

なぜ?
どうして?
なんで?
こんな奴なんかに・・・。
たくさん募る疑念。
強く反発する思いが、その全てを久野のせいにする。
その時、だった。

「久野くん、犬飼くん。ここにいる!?」

「!?!?!?」

この古小屋の戸が外から開いて、2人を救助しに来た教員たち数名のご登場。
そのせいで、犬飼はバクバク高鳴る鼓動を抑えられない。
慌てて速やかに離れたから見られずに済んだが、心臓に負担をめちゃくちゃ悪くかけるほど脈拍を早くさせていたのだった。



負った偽りの理由

そんな救助に来た教員たちの訪れによって、この古小屋からクラブハウスへ、無事に戻って来れた2人。
けどお互いに負傷していた状態だったから、問題は大きく膨らんでいく。

「犬飼くんの足は、あの崖から落ちた時に・・・。」

「はい・・・。」

「じゃあ久野くんの膝の怪我も、その時に?」

負った事情を報告する際、教員たちに色々問われたが、久野が1つだけ嘘を付いた。

「それはー・・・「はい。」

「え?」

それを聞いた時、犬飼の意表が突かれたが、そんな久野と目が合った途端、彼は「シー・・・」と内緒のアイコンタクトで事実を閉ざさせる。
しかし夏の大会が控えた、こんな時に起きた出来事だ。
片方はともかくとして、もう片方は期待が集まっていただけあって、瞬く間に絶望へと染まっていく。

「久野くんは、まいったね・・・。柔道の大会だって、もう時期なのに。」

「すみません。何も考えずに、こんな時に無茶してしまって。」



『アイツに関わるとロクなことがない』

それから久野は発熱の症状もあるため大事をとって、クラブハウス内の医務室へと運ばれた。
犬飼も捻挫の可能性があると診断されたが、久野よりは軽い症状だったせいか。
教員たちの天秤は向こうに傾いて、治療を受けた後その場で解放される。
でも部屋で安静しているようにと指示を受けたから、今日ばかりはおとなしく従った。

「・・・・・・・・・。」

だけどその味は、苦く心に残る。
それは自分よりも向こうを大事にされたことよりも、嘘を付いた久野の印象のが強くて頭から離れそうになかったから。

「・・・あのクソが。」

その事実を知るのは、自分1人だけ。
これならまだ正直に言って、責められた方がマシだったのかもしれない。

「オレなんか・・・庇ってんじゃねえよ。・・・バカ克也。」

そのせいで久野なんかに、大きな大きな借りを作ってしまったのだから。
そして2人が負傷したことを知った生徒から、やっぱり言われてしまったのだ。
『アイツに関わるとロクなことがない』・・・と。



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