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青 ノ 葉
男子高校生たちのお緩い物語
[男子校全寮制][日常系青春コメディ]



#85 青ノ葉 林間録(中編)(1/5)
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転がり落ちた後と滑り降りた後

転がり落ちた犬飼のあとを追うように。
覚悟を決めて、上手に滑り降りていく久野。
この崖が垂直ではなかったことが不幸中の幸い?
しかし斜面の傾度はエグく、滑る勢いは止められない。
少しでもバランスを崩したら自分までも転がってしまいそうだったが、そこは日頃から身体を鍛えているおかげの賜物もあり、上手に上手に滑り降りた身体は怪我を負うことなく1番下の位置まで到達した。

「・・・っ!」

エグかった斜面は、ほぼ草と土。
大きな岩とか樹とか落ちた滑路にはなく、1番下も続いてた雨の影響で緩かった地面がクッション代わりとなった。
そのおかげでなんとか無事に済んだが、本当に無事でよかった・・・と、久野はホッとした息を強く吐く。

(ふぅ・・・。)

その心は、ドキドキとバクバクでいっぱい。
こんな経験したのだって今が初めて。
だけどそんな自分に構ってる暇はない。
さっそく先に落ちた犬飼を探したが、

「あ、いた。」

「!?」

手間が全くもってないほど、いきなり発見。
自分がいた位置とは少し離れていたが、無事に転がり落ちてくれていたようで、犬飼も大きな怪我は負っていなかった。



久野の思いきり行動には

しかし犬飼にとって、久野まで滑り降りてきたのには、ツッコミが満載の模様。
キャンキャンと吠えてまで、驚きを隠せずにいる。

「なんでよりにもよって、お前までここに来てんだよ!」

「仕方ないだろ、身体が勝手に動いたんだから。それにー・・・。」

けど久野がこんな思いきり行動をしたのには、ほぼ無意識の中だったけど、少しだけ理由があった。

「・・・うん。それに、もしあの場に蓮さんがいたら。蓮さんも、きっとこうしてただろうし。」

「は???」

その訳を続けて話したが、それは理由というよりも。
日頃から日暮寮長とよく一緒にいるせいもあって、彼の影響をモロ受けしてただけ。
『蓮さんリスペクター』は、こんなところにも及んでいたのだった。



影響及ぶ蓮さんリスペクター

「あのクソ寮長を感化してるとか、どんだけだよ。」

そんな久野の発言に溜め息吐く犬飼。
ここぞとばかりに苦言の煽り文句をぶつける。

「先公の犬かと思えば・・・。あんなクソ寮長の犬とか、とんだ生徒会様だな。」

「・・・!」

けど久野は一瞬反論するかと思えば、異論は皆無だったのか。
まるで肯定して頷くように。

「・・・えへ。」

その言葉を嬉しそうに受け取って、少し恥ずかしそうに照れてハニかんだ。

「『えへ』じゃねえんだよ!『えへ』じゃ!こっちは全然、ちっとも褒めてないからな!今の!」

『蓮さんリスペクター』は、やっぱりこんなところにも及んでいたのだった。



ここも山の中のまま

「まあ、いいだろ。こんなところに1人でいたら、犬飼だって心細いだろうし。」

「は?オレは別に1人でも、全然平気だったんだが。」

そんなことよりも、ここはどこだろう?
あの崖のような斜面を1番上から1番下まで、滑り降りたor転がり落ちてきたのだ。
クラブハウスの周辺は青ノ葉の私有地ではあるが、その範囲はここまで入ってるか分からない。
それにここも山の中のまま。
基本的には動かない方が救助も早くなるだろうけれど、こんな緑まみれの中に、いつまでもいたら山の野生動物といつ遭遇したっておかしくない状況だ。
けどあの斜面を上って戻るには難しい以前無理そうだから、他に安全に待機出来る場所がないか。
辺りを見回して探すと、ぽつんと一軒。
少し離れているが向こうの方に、古びた小屋っぽい建物があった。

「冥に桃地と救助は任せてあるから。俺たちは一旦、あそこで待機させてもらおう。」

「は?こういう場合、下手に動くのは危険だろ。」

「うん。でも万が一、熊とか出たら。それはそれでもっと危なくなるから。ここにいるよりも安全そうだから、あっちに移動しよう。」

こんな場所に誰か住んでいるのだろうか。
もし居たとしても事情を話せば、きっと分かってくれるはず。
そう思って、今はそれを信じるしかなくて、久野は犬飼と移動を試みる。



いつもより弱い威勢

しかしー・・・。

「行きたきゃ勝手に1人で行けば?」

地面に腰を付けていた犬飼は、この場から動こうとしない。
久野の言うことを聞き入れないつもりなのか。
不機嫌そうにプイッと、そっぽ向く。

「勝手に来といて、何、勝手なこと言ってんだ。誰が従うかよ、お前の指図なんか。」

「・・・・・・・・・。」

「さっきも言っただろ。オレは1人でも全然平気だって。」

けどその様子は、どこかおかしい。
歯向かってくるのはいつものことだが、そのいつもより威勢が弱く感じる。
それに気付いた久野は、この異変を確かめようと、1歩1歩犬飼に近付く。

「な、なんだよ。こっち来んなよ!あっちに行きたいなら勝手に行けって。」

すると案の定で、近付けば近付くほど文句を言われた。
だからもっと確かめる為に、敢えて無視してすると、

「だからこっちに来んなって言ってー・・・、っ!」

犬飼は動かした方の足を痛がり、言い続けていた文句も急停止した。



負傷していた犬飼

「ちょっと待って。今の見せて。今痛がった方の足。」

「ばか!来んなってば!やめろやめろ!触んな!」

「いいから早く見せろって。」

彼は大きく目立つような怪我は負っていなかったものの、見せてもらった足は負傷しており、赤く腫れ上がっていていたのだ。

「な!?なんで、こんな・・・っ。怪我してたなら怪我してるって言いなよ。なんで言わなかった?」

「仕方ないだろ、あんな崖から転がり落ちたんだから。いくら岩とかがなかったとしても、オレからしたら無傷だったお前の方が奇跡だっつーの。化け物かよ。」

「大丈夫ー・・・、じゃないよな?こんなに腫らして・・・。」

「これくらい別に痛か・・・っ・・・。」

それは一目でも分かるほど、痛そうな腫れ具合。
これでよく今まで平常を装っていられたものだ。

「ー・・・痛かねえから。」

「無茶すんなよ、こんな時ぐらい。」



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