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青 ノ 葉
男子高校生たちのお緩い物語
[男子校全寮制][日常系青春コメディ]



#84 青ノ葉 林間録(前編)(4/4)
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居心地悪い学業イベント

そんな犬飼たちはというと、彼らも皆んなから逸れていて、掃除にも参加せずに絶賛サボり中だった。
体育祭同様。単位や出席日数の為に参加はするものの、こういう日ばかりは居心地が悪いから。
なるべく誰にも見つからないように、皆んなから遠く離れて、向かった山林の方面へ身を潜ませる。
そしてこのまま時間が流れていくのを待って、ヒグラシが鳴き始めた頃になっても、皆んなの元には加わらないつもりでいるのだろう。

「・・・小太郎。こういう時までオレに付き合う必要ないから、お前は戻れ。」

しかし犬飼は、そんな時にまで付いてこようとする桃地を自分から引き離そうとした。
だけどその桃地は首を横に振り断る。

「嫌っす。」

「は?戻れって。」

いくら犬飼の命令でも、そればかりは聞けないようだ。
「いくらでも自分をコキ使っていいから」と。絶対に絶対に、犬飼から離れようとはしなかった。



どっかに行ってくれ!

そのせいで、舌をチッと鳴らした犬飼。

「いい加減そういうの、うざいから。」

「い・・・、犬飼さん・・・?」

いつまでも自分から離れようとしない桃地に、今日という日ばかりは腹が立ったようだ。

「金魚のフンみたいに、いつまでもオレについてくんなって。」

「いいっす!それでも・・・。金魚のフンだろうが何だろうが、犬飼さんのためならば自分は何だってするっす!だから自分をどうかー・・・!」

今まで確かにそんな桃地を便利に使ってきた。
だけどどんなことにも時と場合によって、そんな今までが覆ることがあり、今回ばかりは犬飼も1人になりたかった模様。

「じゃあ、どっかに行ってくれ。」

「・・・え?」

「どっか行けよ、ほら!今、オレのためなら何でもするっつっただろ!頼むから、どっか行ってくれ!オレについて来んな!」

桃地が吐いた言葉の揚げ足をとってまで、ついに怒鳴った犬飼は、そのまま桃地を置き去りにした。



夕暮れのヒグラシ

カナカナ鳴くヒグラシの音は、どこか寂しく、どこか切なく。
そんな彼を見送る桃地の目も、どこか哀愁が漂わす色をしている。

「・・・犬飼さん。」

「ついて来んな!」と犬飼に言われた以上、自分でどうすることも出来なかったのか。
皆んなの元へ戻らず、その場に暫く留まった。

「・・・・・・・・・。」

けど、ずっとここにいるわけにもいかないと思えたのか。
ようやく動き始めたが、とぼとぼと歩く彼はどっちに向かっているのだろう。
クラブハウス方面でもなければ、犬飼が向かって行った方面でもない。
まるで2つの間をとるような方向に進んでいったが、そこは人が通るような細道から大きく外れてしまい、人が絶対に通らないような獣道へ。

「・・・・・・・・・。」

虚ろぐ彼は気付いていないのか。
その道を、どんどんどんどん進んでいってしまう。



絶対絶命の桃地

だから泥濘みで足が滑った時には、既に遅かった。

「ッ!?」

生い茂でよく見えてなかった斜面は崖の始まりになっていて、バランスが崩れて転けた桃地の身体は、そのままそこに一直線で向かわされる。
途中で目に入った大きな木の根に手を伸ばして意地でも掴んだが、滑って勢いよく放られた全身は宙ぶらりん、懸垂状態に。

「ーーー・・・っ。」

なんとかそれで凌いでいるものの、それは束の間の時間。
自分1人分の体重を片腕だけではどうにも出来ず、また自身の力にだって限界が存在してあっという間。
せっかく掴んだはずの手は、汗でじりじりと滑り続けるのを止められず、ついに離れてしまう。

「ぁ・・・っ!」

けどそんな絶対絶命だった桃地を。
彼の手をガッと掴まえた人物が1人、落ちる寸前のところで現れた。
その人物とは、もちろんー・・・。

「く・・・っ・・・。待ってろよ、小太郎!今・・・、助けてやるからな・・・!」

「い・・・、犬飼・・・さん?」

さっき怒鳴ってまで置き去りにしてった犬飼だった。



助けたのは犬飼

犬飼は置いて行った後、離れたところで様子を見てたのだろうか。
変な方向に行ってしまう桃地の後を追いかけてきた模様。
けど自分の命令と全然違う行動をされて、とても怒っていた。

「・・・ったく。オレ、戻れって言った・・・よな?・・・なんで全然違う方向に・・・っ・・・行って。」

でも今はお互いに、それどころではない。
掴んだ犬飼が踏ん張っているおかげで、落ちずにいられてるだけの桃地。
泥濘んだ足場は凄く不安定で、この状態がいつまで保てられるのかも分からない。
これさえも束の間に過ぎず、このままでは犬飼まで道連れてしまう恐れがある。

「犬飼さん、離して!自分の手を離して下さいっす!」

それに気付いた桃地は、ハッと我に返ったかのように、そう大きな声を上げた。
しかし、

「うるせぇ!黙れ!・・・今、助けてやるって言っただろ!」

その大きな声には、それよりも大きな声で対抗した犬飼。

「今・・・、力・・・。集中させてるから・・・、黙ってろ・・・っ!」

桃地の言うことに聞く耳を持たず、呼吸を深めて力も込めた。



2人の元へ駆け寄る2人

するとそこへ、もう1人。いや、もう2人。

「あ・・・。やっといた!」

犬飼と桃地を追ってた久野と、その久野の後をつけていた鬼頭が、2人の元へやってくる。
そして現場の惨事を一目瞭然。

「って、お前ら何して!?」

「うるせー!邪魔しにくんな!」

崖に落ちかけてる桃地を、犬飼が引き上げようとしているのが、パッと見でも分かった。

「・・・克也。」

「うわ!?ついてきてたの?冥。」

「まあ・・・。それはいいから、今はそれよりも。」

「うん、分かってる。冥もアイツら助けるの手伝って!」

だから久野も鬼頭も、アイコンタクトだけで合わせた意見。
2人も2人の元へと駆け寄って助け立ち、桃地の腕を掴んだ。



3人の馬鹿力

この時ばかりは、生徒会だろうが特待生だろうが不良生徒だろうが。自身や彼らを表す肩書きは何も関係ない。関係させない。
そして桃地を助ける、この瞬間の為だけに。
息まで合わせた犬飼、久野、鬼頭の馬鹿力が発揮される。

「「「ぅぉぉおおー・・・ッッッ!!!」」」

それは3人で掴んでる腕だけで、桃地ごと上へ上へと。
宙ぶらりんだった身体を、なんとか崖の上まで引き上げることに成功した。

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・。」

「よかった・・・、間に合って。」

しかしそれで全ての力を使い切ってしまったのか。
桃地を救えた、その次の瞬間ー・・・。

「・・・ッ。」

フッと途切れた一瞬の意識が犬飼をフラつかせて、身体を前へ倒れ込ませた。



助けられなかった者

「・・・え?」

「な!?」

それに気付いた時には、既に遅かった。

「犬ー・・・ッ!?」

掴もうと伸ばした救いの手は彼に届かず、犬飼はこの崖を転がり落ちていく。
それを見ていた久野は、呆然に自分が捉われないよう、直ちの行動を。

「冥!先生を!早く先生に伝えて、助けてを呼んできて!」

「ああ、分かった。」

「それからー・・・桃地のことも頼んだ。」

一刻も早く教員たちに報告して、落ちた犬飼の救助を求めないと。
そう鬼頭に命じて、速やかに指示を出す。
けどそこから何を考え出したのだろう。

「頼んだって、え?は?」

彼はここに残るのかと思えば、否。

「ッ!」

「克ー・・・ッ!?」

転がり落ちた犬飼を追うように、久野までも。
覚悟を決めて、この崖を上手に滑り降りていった。



助けられた者

どれもそれはあっという間で、一瞬だった起きた出来事。

「「・・・・・・・・・っ。」」

桃地も鬼頭もその全てを見て、思わず絶句して言葉を失う。
けどそこで己の拳を強く地面に打たせたのは、鬼頭ではなく桃地。

「ー・・・っ。」

彼は何度でも何度でも、その拳を強く落とす。
何度でも、何度でも・・・。
まるで自分が助けられたことを後悔しているかのように。

「犬飼・・・さん・・・っ・・・。」

「・・・・・・・・・。」

隣で静かに見ていた鬼頭からも、その姿は異様に思えた。



青ノ葉 第84話をお読みいただきありがとうございました


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