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青 ノ 葉
男子高校生たちのお緩い物語
[男子校全寮制][日常系青春コメディ]



#80 never give up!(4/4)
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犬飼と颯太

犬飼は司たちの話し声で起きてしまったようだ。

「悪い・・・。目が覚めたから、2人が何か喋ってたから、そのまま黙って聞いてて。」

「あ、いえ。」

そしてノソノソと体も立たせて、ヅカヅカと2人の元へ。
颯太とは今がお互いに初対面のはずなのに、名乗りもせず、同じ質問を問う。

「で?そこのお前、辞めたりしないよな?」

けどそれ以前に、いきなりオレンジ頭に話しかけられてビビっていた颯太。

「えぇっと、えっとえっと・・・。」

「ちょっと待ってサエ先輩。先に颯太に紹介させて。いきなりサエ先輩が話に入ってきて、颯太ビビってるから。」

「司は少し黙ってろ。オレは今、コイツと話してんだから。」

すかさず司が間に入ったが、犬飼に払い退けられ、2人に2人を紹介する時間を失う。



『諦めたら、そこで試合は終了』

「先公如きに言われた言葉を丸々鵜呑みにすんなよ。お前さえ諦めなければ、どうと言うことはない話なんだからさ。」

「サエ先輩?」

けど、そう言葉にした犬飼は、いつにもなく真剣だった。
そんな彼にも司は不思議に思ったが、今はただ颯太が出す答えを待つー・・・。

「そう・・・、ですよね。」

そうして颯太は犬飼に戸惑っていたけど、静かに首を縦に動かして頷く。

「大丈夫です。ボク、こんなこと如きで辞めたりしません。ボク、もっと頑張ります。先輩が言ってくれたように、最後まで諦めず・・・。今までもそうやって乗り切ってきたから。」

とあるバスケ漫画の、とてもとても有名な名台詞。
『諦めたら、そこで試合は終了』。
それを思い出すような言葉を口にした彼は、俯くことなく真っ直ぐな目をしていた。



呼び止められる声

それから明人が家庭科室に帰ってきたタイミングで、犬飼がどこかに去ってしまう。
司も時計を見て、そろそろ寮に帰ろうと颯太と一緒に家庭科室を後にする。

「犬飼 冴先輩っていうんだ、さっきのオレンジの人。」

「なんかちゃんと紹介出来ないままになっててごめんよ颯太。」

「ううん、いいのいいの。少し怖そうな人だったけど、でもなんだろう?なんかそれだけじゃなくて、優しそうな感じもする人だったね。」

「サエ先輩は実際に普通に優しくて、いい先輩だよ。いつもなんだかんだで遊び相手になってくれるし。」

結局、犬飼が自分から名乗らなかったので、颯太に間接的な紹介となってしまったが、これはこれでアリだったのだろうか。
颯太から見て犬飼の印象は、そんなに悪くなかったようだ。
犬飼は比路や朋也とは仲が良くないから、ようやくその2人と違う意見が聞けて、司はどことなくホッとした。
そして校舎から学生寮へ続く一本道を2人で歩いていると、

「颯太!!」

突然、颯太を呼び止める声が大きく聞こえた。

「え?」

振り返るとそこには野球部のユニホームを着た男子生徒が2人、走ってこっちにやって来る。



やってきた野球部2年の2人

「やっと見つけた颯太。ったく、捜しただろ。気付いたら斗真先輩のようにいなくなってて・・・。」

やって来た野球部2人の男子生徒は、今の今まで颯太を捜していたようで、ゼェゼェと肩で息をしながら切らしていた。
その2人に颯太は目を丸くするほど驚いていたが、自分が見つかったことによって、薄っすらと顔に青筋を立たす。

「陸哉先輩・・・、それに謙吾先輩まで・・・。」

「誰?」

「え、あ・・・。ユニホームで分かると思うけど、野球部の2年の先輩・・・。1人は真柴 陸哉先輩でー・・・。」

そんな颯太を隣見て、やって来た野球部2人の紹介を求めた司。
この空気を読んでいるのか、読んでないのか。
颯太よりも1歩前に出て、間に割り込むように立つ。
それに気付いた野球部2人のうち1人、陸哉じゃない方の男子生徒は、颯太の前にいる司をジーッと見つめていた。

「・・・・・・・・・。」



加藤 謙吾

そんな彼の名は、

「もう1人は、加藤 謙吾先輩。」

加藤 謙吾(かとう けんご)。
身長174cm。2年A組で、野球部に所属しており、ポジションはキャッチャー。現在は青ノ葉学園野球部のエース、紺野とバッテリーを組んでいる。
よく『カトケン』と呼ばれていて、真面目で堅物でムッツリな男の子。
エッチなモノを見せられたら真っ赤な顔をして怒るが、興味がないというわけではない。
それから加藤とはリトルの頃から知ってる人だと、颯太が紹介してくれた。

「青ノ葉で入部した時、謙吾先輩がボクのこと知っててくれてビックリしたんだよ。当時は敵チームだったし、ボクらのチームのが弱小だったから。」

「へぇ、そうだったんだ。」

そうしてその2人に司を紹介しら颯太だったが、その間も司は加藤の視線に気付いているのかいないのか。
ジーッと見られている目と合うことはなかった。

「・・・・・・・・・。」



強く叱れない理由

しかし陸哉も加藤も、部活を抜け出してた颯太を見つけても強く叱ってこなかった。

「うちのエース様が生徒会のくせに模範に反抗して、抜け出しとサボりの常習犯だからな。オレもカトケンも強くは言えないけど、颯太まで急にいなくなってビックリしたからさ。」

「そう、だったんですね。なんか色々とごめんなさい・・・。」

けれど部活中に颯太が突然いなくなったのは、2人にとって急だったから。野球部のグラウンドや部室を捜しても捜しても見つけられなくて、凄く驚いたし凄く心配したそうだ。
特に加藤の方が。

「まあ、カトケンに感謝しろよ?颯太がいなかった間、チームの士気を下げないよう、カトケンが誤魔化してくれてたんだから。そりゃもう必死の必死で。」

「やめろ、陸哉。颯太に誤解を招くような言い方するな。」

「誤解も何も、オレは事実をありのまま言っただけだっつーの。」

それを陸哉に突っつかれた途端、加藤は顔をタコのように真っ赤に染めたが、その言葉に嘘はなかった。



あの話って何?

「今回のこと責めはしないけど、斗真先輩は斗真先輩、颯太は颯太なんだから。あまりあの人を習わんでくれ。」

そんな加藤と颯太を2人見て、何かを思い出した陸哉。

「あ。カトケン、なんならついでに颯太にあの話をしたら?」

「あの話???」

「ほら。オレが前に颯太に伝えたバッテー・・・「行くぞ、陸哉!」

颯太も『あの話』が、何か分からなくてチンプンカンプン。
陸哉が続けて言ってくれそうだったが、大きい声を上げた加藤に遮られてしまう。

「今日はこの雨で部活も切り上げになったから。俺らもこれで寮に帰るけど、颯太まで練習態度怠られたら、困るのはこっちもなんだから。投手ならこの意味をよく噛み締めていてくれ。・・・じゃあな。」

そして遮った加藤のせいで、結局分からずじまいのまま。
野球部からいなくなった颯太を無事に見つけられて、この場は解決したのか。
続きを言いたそうな陸哉を無理矢理にでも加藤は連れて、2人揃って彼らも寮へと帰って行った。



今日は、ありがとう

呼び止められた時は青ざめた颯太だったが、思ってたより怒られずに済んでホッとした息を吐く。

「よかった・・・って言っていいのかな?あの人たちに颯太が見つかった時は、俺もヤバイってなったけど。」

「だから大丈夫だって言ったでしょ?ウチのキャプテンがよく抜け出す人だったから。」

それは司も一緒。
ピリピリ感じた一瞬のムードが、直ぐに止んでくれて何より。

「司くん。今日は、ありがとう。ボクの我が儘に付き合ってもらっちゃって。」

「いやいや。俺はただただ自分の部活をサボってただけだったし、あんまり礼を言われるようなことしてないよ?」

「ううん、そんなことないよ。・・・謙吾先輩にも練習サボるなって釘打たれちゃったけど。でもその前に司くんたちのおかげでボク、また頑張ろうって思えることが出来たから。」

「颯太・・・。」

「本当にありがとう、司くん。」

そうして司にお礼を伝えた颯太は、崩れかけてた時とは全然違う、ニッコリな笑顔を見せてくれたのだった。



信じようー・・・。
今はまだ険しくイバラな道でも、きっと彼ならマウンドに立てる日が訪れるのを。



青ノ葉 第80話をお読みいただきありがとうございました!

佐藤さんと鈴木さんの番組、私も好きでした
颯太の名字が佐藤になったのも。
稚空や明人の名字が鈴木になったのも、それが理由。
リアルでも絶対に見かける名字なので、自分の作品にも
(特に人数が多くなる学園モノでは)絶対入れたかったのです


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