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青 ノ 葉
男子高校生たちのお緩い物語
[男子校全寮制][日常系青春コメディ]



#80 never give up!(3/4)
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サボり場所

そうして颯太まで司とサボることになった放課後。
けど連れて行ける場所は、ただひとつ。
どこかにいる朋也に見つからないように、こっそりこっそりと。いつものように家庭科室へと向かった。

「いらっしゃい、司くん。佐藤くん連れて来るなんて珍しいね。」

「あっはっはっは。ちょっと色々あって、今日は颯太とサボり同盟組んじゃって。」

「ふぅーん。」

そしていつものように明人が出迎えてくれたが、颯太と同伴だったのは、やっぱり珍し過ぎた模様。

「佐藤くんも麦茶、冷たいのでいい?」

「あ・・・、はい。ボクまでお邪魔しちゃってごめんなさい、鈴木先輩。」

「ううん、大丈夫。佐藤くんもよかったらゆっくりしていってね。」

けど余計な検索もすることなく、冷たい麦茶を2人分。
ちょっとしたお茶菓子も添えて用意してくれた。



先客の犬飼

「・・・・・・・・・。」

司はここでサボるのに慣れているが、颯太は初めてきたばかり。
明人からこんなに歓迎受けるとは思ってなくてソワソワしていて、冷たい麦茶よりもちょっとしたお茶菓子よりも。向こうの離れた所でグースカ寝てる、オレンジ頭の犬飼に気付いて落ち着かなかった。

「あれ?サエ先輩も来てたんだ。」

「うん。お茶飲んだら、あそこで直ぐに寝ちゃったから。冴くん、今日は寝不足だったのかな?なるべく起こさないであげてね。」

けど司も明人も寝てる犬飼を見ても、特に何も思ってなくて、すごく慣れている様子。
そのせいで、

「司くんって、なんかやっぱり凄いね。」

と。ついついそんな司を、キラキラとした目で褒めてしまった颯太だった。

「え。」

「ダメだよ、佐藤くん。園芸部サボりっぱなしの司くん褒めちゃ。出迎えてる僕が言える台詞でもないけど。」



佐藤さんと鈴木さん

そうして司は、あっという間にいつも通りに。颯太も不慣れなまま過ごしていると、

「佐藤くんの名前って、颯太くんであってるんだよね?」

「あってるけどー・・・あれ?まさか明人兄、颯太の名前忘れちゃった?」

「そんな司くんみたいな失礼なことしないよ。ちゃんと覚えてたから改めて訊いたの。その、佐藤くんのことも颯太くんって呼ばせてほしくて。」

明人は颯太のことまで名前で呼びたいと言ってきた。

「ほら、佐藤って名字の生徒。佐藤くん以外にもいるし、何なら2年生や僕らの学年にもいるから。ある日、廊下とかで佐藤くんを呼んだ時、佐藤くん以外の佐藤くんまで振り向かせちゃったら申し訳ないなって、ずっと思ってて。」

「なるほどー。確かに佐藤って名字の人、多いもんね。」

そんな明人の言い分は、颯太にとっても分かり味が強かったようだ。

「全然いいですよ。それならボクも鈴木先輩のこと司くんたちのように明人先輩って呼んでもいいですか?稚空くんもそうだったんだけど、鈴木っていう人も多いから。大勢いる中で呼ぶのは少し不便で。」

「もちろんいいよ。むしろそっちの方が僕としても助かるから、稚空のことも含めて名前でいいよ。」

「なるほどー。確かに鈴木って名字の人も多いもんね。」

それだけ『佐藤』くんや『鈴木』くんが、青ノ葉学園の世界にも多く存在している証だった。

「お父さんが言ってたんだよね。昔、佐藤さんと鈴木さんが戦ってる番組があって、凄く面白かったって。」



蘇る気まずさ

それから時間が少し経った、その時。

「2人ともごめん。演劇部に用あったの思い出したから、少し席外すけどいい?」

「あ、うん。大丈夫だよ。いってらっしゃい、明人兄。」

明人が家庭科室から出て行ってしまったので、司と颯太は再び2人だけの状態に(犬飼は寝たままなのでカウントは除外)。

「・・・・・・・・・。」

司は明人がいてくれてたから、いつも通りでいられたのに。いなくなっちゃったせいで、気まずさを思い出す。
でも颯太に気づかれたくないから。
お茶を静かに飲んだり、お茶菓子を静かに食べたりして、察されないよう気を付けていた。
けど何を話題にして場を盛り上げるべきか。
うーんっと悩んでいると、颯太から司へ。

「・・・あの、ね。司くんに、こういう話するのもアレかなって思うんだけど。」

「うん?」

「この間、ね。瑛くんの機嫌が凄く悪い日があって・・・。流石にボクも、その時の瑛くん怖かったんだけど・・・。」

「え、瑛が?」

急に何の話かと思ったが、そのまま瑛の話を続けて聞かす。



不機嫌だった訳

「うん。ちょうど寮の廊下で後藤くんと鉢合った時に、瑛くん後藤くんに八つ当たっちゃって。」

「そ、そうだったんだ。そんな日があったなんて俺、知らなかったな。」

それは瑛が異常なまでに不機嫌だった時のこと。
部活前までは特に何もなかったのに、所属する陸上部の方で何かがあったようで、そこから機嫌が最悪に悪くなってしまったそうだ。

「それって今は大丈夫?颯太まで朋也みたいに八つ当たりされてない?」

「そこは大丈夫。瑛くん、そんなことするような人じゃないー・・・はずなのに。だから後藤くんに当たった時は、ボクもビックリしちゃって。」

そして颯太が話すのは、その続き。

「何があったんだろうって、瑛くんが落ち着いた時に話聞いたら。・・・瑛くん、100mじゃなくて200mに種目変えないかって。顧問の先生に言われたらしくて・・・。」

「え!?瑛が!?」

しかしそれは今の颯太と状況が、そっくりそのまま。
野球部か陸上部か。違いはそれだけで、まるで一緒のように感じた。



将来を揺るがす選択

さすが陸上部の短距離選手だけあって、体育祭での瑛は(リレー時の例外除き)敵なし同然の活躍っぷりだった。
けれどそれは青ノ葉の1年生だけの範囲。
陸上部の100mには、全国経験者の鬼頭がいるから。
瑛も短距離のレギュラー陣として十分な好成績を保持しているが、同じ種目に彼がいる限り、表彰台に上がれることがあっても1番上までは望めない。
望めたとしても、それは鬼頭が青ノ葉を卒業した後の話で、期間は自分が大学受験で引退時期に追い込まれるまでの、たった1年間だけ。

「『井戸の中の蛙 大海を知らず』・・・。いつだったか本田先生が聞かせてくれたよね、この話。今の瑛くんの状況も、これに値するのかなって思って・・・。」

「それで・・・結局、瑛はどうなったの?」

「まだ分かんない。けど・・・・・・瑛くん、どうなっちゃうんだろうね。」

けど短距離には100m以外にも、距離は伸びるが200mの種目もあるから。
種目を変えずに、たった1年だけ輝くか。
種目を変えて、もっと早く輝く可能性のある未来を掴みにいくか。
どちらにせよ瑛の将来を大きく揺るがす選択肢だ。



似て異なる境遇

でもその続きを聞いても、やっぱり颯太も同じ状況のように聞こえた。
だから司は思わず口にしてしまう。

「それを言うなら颯太だって!」

陸上部の勝手はよく分からないけれど、野球部のことならサクセス系のゲームで得た知識があるから。知らない部分も当然多いけど、投手の座を降ろされてしまった選手の結末はBADのみのエンドしか迎えない。

「野球部の顧問に、さっきあんなこと言われたばかりなのに・・・っ!」

なのにそんな自分のことよりも、瑛の方を心配そうにしていたから。
たまたま偶然、立ち聞いてしまったけれど、ずっと司は心配で仕方がなかった。

「司くん・・・、ありがとう。でもボクなら大丈夫だよ。確かにボクと瑛くんの状況、似ているけど少し違うから。」

「え?」

すると颯太は言われた直後こそショックを受けていたものの、司が心配に思うほどのことではないと返す。

「だってボクの場合・・・、今日が初めてじゃないから。リトルの頃から向いてないって言われ続けて来たから。割と慣れてるっていうか、監督にあの場所に連れて来られた時点で察しが出来ちゃったっていうか。」

颯太にとって、それは初めてではない。
察しが付くほど慣れてしまっていた。



3度目の降格宣告

そんな颯太のこれまでの成績は、花形から遠く、控え投手としてもギリギリで微妙な立ち位置。
リトルの頃でも中学の頃でも、自分よりも優れたチームメイトが必ずいて、その子がマウンドに立つのを、いつも羨ましく見ているだけだったそうだ。

「もっと背が高くて、豪速球を投げれて、群抜きの奇才な能力が何かあればよかったんだけど。残念ながらボクは、ただ野球が好きなだけの凡人、だから・・・。」

そして青ノ葉で3度目の降格宣告を受けて、今回が初めじゃなくても、言われ慣れてるにしても。
司は、これで颯太が本当に辞めてしまわないか不安になる。

「それでも、颯太。・・・ピッチャー、辞めないよね?」

「・・・・・・・・・。」

するとその時、

「・・・辞めるわけないよな?」

「え?」

「わ!?さ、サエ先輩!?」

ずっとあっちの離れた所で寝ていた犬飼が急に話に入ってきて、あまりにも突然だったから司も颯太も驚いた声を上げた。



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