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青 ノ 葉
男子高校生たちのお緩い物語
[男子校全寮制][日常系青春コメディ]



#78 水無月が終わる頃(2/4)
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苦い思い出

そうして日暮寮長と共に学生寮の保管庫にやって来た比路。
だけど中には入らず、出入り口のドアの前で立ち尽くしている。

「・・・・・・。」

そこでようやく思い出したのだ。
以前、この保管庫に閉じ込められた記憶を。
その日も確か在庫確認の手伝いとして連れて来られたはず。

「何してんだ?そんなとこで突っ立って。さっさと入って来いよ。」

「も、もうこの倉庫の鍵って、大丈夫なんだよね?」

「ん?当たり前だろ。何言っ・・・。あー・・・、そういやそうだったな。」

だから不安で入れずにいたら、その当時の出来事を日暮寮長も思い出してくれたようだ。

「あのあと直ぐ修理入ったし、あれ以降は特に問題なかったからな。」

けれどその心配は不要?
確かにあの時は閉じ込められたが、次の日には修理され、寮長自身が何度も出入りしても特に問題は起きなかったようだ。

「まあ大丈夫だろ。安心して入って来い。」

「大丈夫かな、本当に・・・。」

それでもいまいち信用出来なかったので、また閉じ込められないことを祈りつつ、恐る恐る倉庫の中へと入って行く比路だった。



ペン類は全部1本50円

保管庫の中は以前と印象は変わらない。
学校生活や寮生活に関わる備品がいっぱいあって、つい目移りしてしまう。

「あ。寮長、ついでに赤ペン、ここで買ってってもいいです?もうちょっとでインクが切れそうなの思い出して。」

「いいぞ。付き合わせた礼に、あとでお駄賃としてやるから持ってけ。」

「お駄賃って言われても1本50円なんですけど・・・。お小遣いとして考えたら凄く助かる価格だけど、お駄賃として考えたらなんか微妙な金額・・・。」

日暮寮長はさっそくファイルに挟んだ書類に、サラサラと在庫数を記入していく。
比路もお手伝いとしてー・・・。目の前の物から在庫を数えようとしたが、『今、別の数字を言われたらごっちゃになって困る』と断られた為、お手伝いとして来たはずなのに、ただ突っ立ってるだけの存在に。

「あの、寮長?僕、これ本当に要ります?」

「要るから連れて来たんだろ。黙々と1人でやんのも飽きてくんだって。だから適当に話し相手にでもなっててくれ。けど数字は言うなよ。」

「話し相手って言われても。」

久野もこうやって毎月、寮長に付き合わされているのかな。
そう考えたら彼の苦労が目に見えて浮かび、比路は思わず溜め息を吐いた。

(克也も毎月付き合わされてて大変だな〜。)



寮長の話し相手

「いいから。なんでも話せって。訊きたいことあったら、答えられる範囲で答えっから。」

「え・・・っと、じゃあ・・・。」

寮長の話し相手として訪れた、この機会。
せっかくだから何を話そう?

「保管庫にある物で足りなくなってきた物あったら、寮長が自ら商店街に買いに行ってるの?」

「だいたいは業者に発注して届けてもらってるが、それでもどうしても間に合わない場合は、街の方までバイク走らせて買いに行く時もあるな。」

比路は何から話を始めた方がいいか少し迷った結果。
手始めに保管庫に関して尋ねてみた。

「へえ。・・・って、バイク!?寮長、バイク乗れるんですか?!」

「嘘だと思うなら克也にも訊いてみな。後ろに乗せたことあっから。」

するとその過程で知った日暮寮長のバイクの話。
乗れることにもビックリしたが、持ってたこと自体にもビックリが隠せなかった。

「車じゃないんですね。」

「今時季に走らせるのが1番気持ちいしな。」



寮長の話し相手 2

寮長の話し相手として訪れた、この機会。
そろそろ別の話題に切り替えてみる?

「寮長って、克也と仲良いんですね。」

「まあな。アイツは俺のー・・・。まあ、可愛い後輩であることには違いねえな。」

比路は次は話そうか少し迷った結果。
せっかくなので久野との仲を尋ねてみた。

「そういう峰岸も克也と仲良く見えるが、あんまり後輩感ないよな?」

「克也とは昔馴染みだから。出会ったのだって小学校低学年の頃だったし。だから先輩と言うよりはー・・・。克也のが年が上っていうのは、当時からちゃんと分かってたんだけど。」

「昔馴染み?それ、幼馴染みと言い間違えてないか?」

「うーん・・・。通ってた道場が一緒だっただけで、小も中も通う地区が違ってたから。司みたいにずっと学校も一緒だったら自信持って言えるんだけど、克也はそうじゃなかったから。だからなんか幼馴染みって言っちゃうと僕の中で少し変な感じがして。でも昔から馴染んでいたことには変わりないから、昔馴染みって言った方がなんとなくしっくりしちゃって。」

「なるほどな。」

しかし寮長よりも自分との関係の方が。
気づいたらペラペラと話していたが、久野を話題に上げた為か、会話に詰まることがあまりなかった。



寮長の話し相手 3

寮長の話し相手として訪れた、この機会。
もうそろそろ別の話題に切り替えてみる?

「じゃあ峰岸の中で、正式に幼馴染みって呼べるのは森だけか。」

「う、うん。」

比路が次の話をしようとした途端、さっきの話題がちょっとだけ続いたのか。
今度は日暮寮長の方から尋ねられる。

「司とは小中は勿論。通ってた保育園だって一緒。誕生日だって1日違いで、クラスもずっと一緒だったから。」

「そこまで続いてると聞いてるだけでも、やっぱ腐れ縁って凄えなってなるな。」

「うん。僕もそう思う。」

司とのことを話題に上げられた為か。
おかげで比路も答えやすかった。

「ま、もっと凄えのいるけどな。誕生日が1日違いじゃなくて、誕生日までも一緒だった腐れ縁の奴。」

「うわ、それは凄い。凄いとしか言いようないけど、凄い。僕たち以上にそんな凄い人たち本当にいるんですね。」

「だろ?」



寮長の話し相手 4

前に保管庫に閉じ込められた時は、まだ警戒心がいっぱいだった比路。
けど日が経つにつれて、少しずつ緩和されていったのか。
今回はあの頃よりも日暮寮長と話すことが出来た気がする。
それは思ってたよりも楽しかったのか、最後に1つだけ。
田邊から頼まれていたあのことを遠回しに尋ねてみた。

「ところで日暮寮長って、その、チロ先生とも仲がいいですよね?」

「・・・・・・。」

しかしその途端、会話しながらも動かしっぱなしだった寮長の手がピタリと止まる。

「一部の噂で、日暮寮長をお父さん。チロ先生をお母さんとして見たいっていう人がいるって聞いて。」

「それ・・・。どうせ田邊あたりだろ?そういう噂を広めてる主犯格。」

(あ、あれ?バレてる!?)

「本当にアイツは何回言っても・・・。」

比路の質問が悪かったかどうかは置いといて、遠回したはずなのに1発でバレた質問元の主犯格。
田邊自身、何度も直接聞き込みしまくっていたのか。
奴経由だと察すると日暮寮長は、ブツクサ文句を呟きながら、疲れた溜め息を吐いた。



寮長の話し相手 5

でもその様子からして、この噂は否定ってことでいいのかな。

「確かに峰岸には、でっけえ家族的なこと。前に言ったことあっけどよ〜。アレはアレだったから、ああ言ったまでで。流石にこんなティーン男子ばっかの子沢山は、いくら俺でも少しまいるな。」

「僕もチロ先生がお母さんって感じは、なんとなく分かるけど。寮長がお父さんって感じは、あんまりしない・・・。」

「だろ?俺だってしねえよ。まだ結婚もしたことねえのによ。」

それを本人の口から聞けたのであれば、もうそれが答えだろう。
ならば今度、田邊に会った時、2人の仲に特別なことはないと伝えておこう。

「・・・寮長って28歳でしたよね?恋人とか、いないんですか?そろそろ考えた方がいいんじゃ?」

「余計なお世話だ。それに俺はまだ28じゃねえ。今年で28だ。」

「・・・・・・おっさん。」

「おいおいおい。こんなにいい歳した年頃の男に向かって、今なんか言ったか?クソガキ。」

我ながらこんな質問しておいてアレだけど、結婚云々の前に。寮長に恋人がいる気配があまり感じないのも、どうかと思う比路だった。



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