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青 ノ 葉
男子高校生たちのお緩い物語
[男子校全寮制][日常系青春コメディ]



#76 招かれた奥の私室(1/4)
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逆パターンの朝

朝6時、学生寮の食堂にて。

「おはよう克也。」

「・・・おはよう、比路。」

この時間に最初にやって来るのは久野で、その次が比路。
でも今日、最初にやって来たのは比路で、その次が久野。
いつもと逆パターンとなった待ち合わせの朝。

「今日は比路のが早かったんだね。」

「うん。今日は珍しく目覚ましのアラームが鳴る前に起きれたから。いつも克也を待たせてばかりだったし、ちょっとだけ。っと言っても5分ぐらい前だけど早く来ちゃった。」

「そう、だったんだ・・・。」

それは過去にも、たまにあった順番の入れ替わり。
でも久野にとって比路が先にいるのは、あまり心宜しくないのか。

「・・・それなら俺も今後は5分、早めに起きるようにしようかな。」

「え。」

「俺に合わせて起きてくれてる比路を、さらに待たせるなんて。比路に申し訳ないし。」

どこか不服そうにしていた。



ピッタリだからこそ譲れない?

たった5分は、されど5分。
短い時間だけど、生じる差は大きな時間。

「え?え?え?そんな気のしなくていいよ克也。今日がたまたまだっただけだから。明日また一緒の時間で起きてこれる自信ないし、克也を待たせる時間その分長くなっちゃう。」

「比路こそ気にしなくていいよ。俺、割と待つのは好きだけど、逆に待たせるのはあまり好きじゃなくて・・・。」

息が合いやすい比路と久野。
お互いに相手を待たせるのは、あまり得意ではないようで、そんなところもピッタリな2人。

「たまたまだっただけだから。それに克也が5分早く起きてくるなら、僕だって。たまには克也を待たせないよう、その5分早く起きられるよう頑張ってみる。」

「それなら俺は、もうあと5分。早く起きてこようかな。」

「「・・・・・・・・・。」」

ピッタリすぎて譲れないのか。
「その5分」を、「もうあと5分」を、と。
早く起きる早く起きると言い張って、お互いに自分から折らない。
それを偶然、立ち聞いていたのか。

「やめろ、その不毛な意地の張り合い。俺が起きる時間まで影響してくるだろ。克也の場合、冗談に聞こえねえし・・・。」

食堂にいた日暮寮長が、2人に対して思わずツッコミを入れてきた。



久野を動物に例えたらゴールデンレトリバー?

「おはようございます蓮さん。」

「・・・おはようございます。」

「今日も朝から雨だってんのに、柔道部は頑張るな。」

「室外で活動する部と違って、天候にあまり左右されない部ですから。」

こうして学生寮の食堂に、比路と久野と寮長の3人の姿が集まる。
比路は昨夜のことを気にしているのか。
田邊に言われたことを気にしているのか。
いつものように挨拶はしたものの、それ以降は2人の会話に入ることなく、口を閉ざして思わず固まってしまう。

「・・・・・・・・・。」

すると寮長から、

「ところで峰岸って、犬派?猫派?」

唐突に脈絡がない質問がやってくる。

「え!?えっとー?その2択なら犬・・・派?」

おかげで答える方も、萎縮を忘れて疑問系な発言に。
しかしそれはさっきの話が、まだ続いていたようで。

「それなら克也のこと別に何も気にすることないぞ。躾が行き渡ったゴールデンレトリバーのように、峰岸が来るまで行気良く待てが出来る奴だから。・・・たまに尻尾を振っ「蓮さん!?いきなり比路に変なこと言わないで下さい!!」

「え?え?え?え?え?」

久野をゴールデンレトリバーに例えて、そう話を聞かせてくれたが、最後の最後で余計なことを口走ったのか。久野に強く遮れられてしまう。
結局、比路にとって何だったのかよく分からなかったけど、そんな中からでも2人の仲が良いのだけは分かった。



あの夜、何をしていたの?

寮長はそのまま追いやられ、再び2人になった比路と久野。
その後は一緒の卓にて朝ごはんを食す。

「え!?比路、見てたの!?」

「ロビーの自動販売機の前と、それから寮長室の前で。だから克也って寮長と仲良いんだなぁって思って。」

そしてせっかくなので。
夜に見かけた2人のことを話題に上げて、久野に尋ねてみた。

「どっちもごめん。比路に気付いてなくて。」

「ううん。こっちもタイミング悪くて掴めずって感じだったから。」

「けど全然、話し掛けてもらって大丈夫だったよ。」

すると彼は本当に全くもって気付いてなかったようで、驚いた声を上げる。
あの時、久野と寮長は寮長室の中で、いったい何をしていたのか。
久野本人から少し教えてもらった。

「蓮さんのが凄くて、ちょっと大変で・・・。」

「え?寮長の・・・、何が???」

大事な大事な主語が抜けてしまっていたが。



ホントにあの夜、何をしていたの?

そこで克也は何を思ったのか。

「・・・・・・。比路って今晩、何か用事ある?」

「今晩?」

「だいたいー・・・19時すぎぐらい。もちろん他に用があったら、そっち優先でいいんだけど。」

少し考え込んで静かに頷き、そう比路を誘う。

「その時間、いつも司たちとゲームしてるとき多いけど、今日くらいなら。克也と約束してるって言えば大丈夫だと思う。」

「それはそれで司に悪い気がするから、無理に空けなくても・・・。」

「ううん。平気、平気。他にみんなもいるから、僕1人くらい抜けたって全然問題ないよ。」

「そっか。・・・よかった。」

比路も比路で、特に変わった用はないからと。
2つ返事で頷くと、久野もホッとしたような顔を見せた。

「蓮さんが凄いから、俺1人じゃちょっと大変で・・・。」

「え?さっきから寮長の・・・、何が凄いの???」

大事な大事な主語が抜けてしまっていたが。



一瞬だけ見せた疲れ顔

そして頷いた後に気になったのは、久野が指定した時間。

「あれ?でも19時ってー・・・。」

いつもであれば彼はまだ道場に居残っていて、寮に帰って来てないことが多い。
だから改めて尋ねたが、

「・・・うん、またちょっと生徒会の方が忙しくなってきて。放課後、見回りで顔は出せると思うんだけど、部活自体には多分・・・。参加出来なくなると思う。」

素直に訳を話してくれた際、久野の表情が一瞬だけ。ほんの一瞬だけ暗くなった気がした。

「そっか。あ、豊部長に伝えとく?」

「それは大丈夫。豊先輩には、もう昨日の時点で直接言ってるから。」

ここ最近、彼は忙しかったから、それが顔に出てしまったのだろう。

「だいたい19時前ぐらいに、こっちの仕事も終わると思うから。その頃、比路のスマホに連絡入れるね。」



改めてだからこそ

するとその時、久野は今の会話で何か面白かったのか。
さっき見せた一瞬の表情とは違い、フフッと柔らかく笑う。

「そういえばこうして比路と連絡取り合うの初めてだね。」

「あ、そっか。僕、5月に買ってもらったばっかだったし。」

2人が出会ったのは互いに小学生の頃。
けど通う学校の地区が小も中も異なってていた為、顔が合わせられたのは通う道場内でのみ。
受験の関係で久野が道場を去って以降は連絡手段がないので音沙汰なくなり、その後、青ノ葉学園で再会果たす。
ようやく一緒の学校になれて部活も同じ柔道部で、昔と変わらずよくお喋りする仲でも、直接話す以外はあんまりなかった。

「そう思ったらなんか不思議な緊張感あるなぁ。どう?スマホの操作もだいぶ慣れた?」

「基本的なことまではなんとか。司や友達にいろいろ教わりながらだったけど。」

「そっか、それなら安心。でも俺もメッセージ送るの、あんまり得意じゃないから許してね。」

「大丈夫、大丈夫。それじゃあ今晩、克也からの連絡待ってるね。」

「うん。俺もなるべく遅くならないよう心掛けるから。」

だから『比路に連絡入れる』。
ただそれだけだけど、これがかなり新鮮だったようで、思わず笑ってしまったようだ。



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