田邊にそう言われて、傘を持つ手をグッと強く握る黒崎。
「ー・・・やっぱり大輔くん、なんだよね?僕に対して、そういう噂を流させたの。」
黒崎は『図書室の本を全て読みきった文芸部の生徒』という噂を持つ生徒。 それは人から人へ、自分が知らない間に下級生にまで流れていた通り名。
「それが何?なんか文句あんの?」
でもその発信源は田邊によるもの。 元は文芸部の宣伝も兼ねて、黒崎の印象がインパクトに残るよう仕立て上げただけ。
「伝言ゲームって凄いよな〜。上手に上手に変態部分だけがキレイに取り抜かれてって。」
「・・・びっくりしたよ。初対面な人にまで、僕のことそういう風に呼ばれて。」
「結果的によかったじゃん。真央がそういう風に覚えられるようになって。いっつも図書室の隅で本読んでばっかいて、当時の先輩らに『アイツ誰だっけ?』で、全然覚えてもらえてなかったんだから。」
しかし黒崎にとって、それは全然嬉しくなかった模様。 元凶の田邊に何か言いたかったようだが、田邊の強い言葉に捻じ伏せられる。
「感謝しろよ?同じ文芸部員のよしみとして付けてやったんだから。じゃなかったら今ごろ下級生にも『アイツ誰だっけ?』で、覚えられてない可能性高いんだから。」
「・・・・・・・・・っ。」
そのせいで何も言い返せなくなって、傘で隠した顔を俯かせた。
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