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青 ノ 葉
男子高校生たちのお緩い物語
[男子校全寮制][日常系青春コメディ]



#71 青ノ葉 雨模様(Epilogue)(3/4)
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再び彼のところへ

放課後。
まだ気になることがあって、矢口は家庭科室へ。

「いらっしゃー・・・!?いらっしゃい、矢口くん。もうここには暫く来ないと思ってたからビックリした。」

「あ・・・、今日は話があって。」

「その前に怪我すごいけど大丈夫?痛そう・・・。」

「・・・いちお。これぐらい慣れてるから。」

「でも今日は先客がこれからー・・・。」

室内にいたのは、明人1人だけ。
司も司以外の生徒も、まだここには来てないようだ。
それはそれで矢口にとって都合がよくて、いつものように麦茶をご馳走になる前に用件を話した。

「なんで、前、ここ来たときに・・・。」

「ん?」

「・・・・・・、なんで前ここに来たとき。鈴木先輩、俺に真央のこと尋ねたんですか?」

「・・・・・・・・・。」

それはほんのちょっと前のことだけど、明人は矢口に黒崎のことを訊いてきた。
アレは一体なんだったのか。
あの時は気にならなかったけど、今は気になって仕方がない。
彼は黒崎のこと。
あの時点で、何か知っていたのではないか・・・と。



隠れて!

その時、何かの気配にハッと気付いた明人。

「矢口くん、ごめん!隠れて!!」

「って言われても、どこに!?」

「じゃあとりあえず、こっち来て。姿勢を低くしてしゃがんで!」

「!」

家庭科室の調理台を利用して、屈めば壁となり隠れることが出来るからと。
彼らしくもない慌てた声を上げ、自分のところに急いで呼ぶと共に、矢口に身を隠させた。
なぜなら、

「お邪魔ー・・・します。」

「いらっしゃい真央くん。」

「!?」

今、家庭科室に入ってきたばかりの生徒が、黒崎だったから。
矢口から黒崎の名を聞いて、今ここで2人が鉢合わせるわけにはいかないと、明人なりに察して気を遣ったようだ。

「・・・あ、よかった。冴君たちまだ来てなくて。」

「ごめんね。最近、犬飼くんたちここで屯ってること多くて。」



小鳥のサブレーを持ってきた人物

おかげで黒崎は矢口に気付いてないようだ。

「教室で話たいことあるって言ってたから、そろそろ来る頃かなって思って、お茶淹れて待ってようとしたところだけど。真央くん、お茶いる?」

「ううん。今日はいいや、大丈夫。」

「・・・そっか。」

「あ、コレ。お父さんからお土産で貰っちゃって。食べ切れないから、よかったらここのお茶菓子に使って。また小鳥のサブレーになっちゃうんだけど。」

「わ!?またこんなに貰っていいの?!僕の弟の友達も美味しい言ってくれたお菓子だから凄く嬉しいよ。ありがとう真央くん。」

明人も明人で、矢口なんてここにいない。
家庭科室にいるのは自分1人だけという素振りを、完璧にしているから、気付けようがなかった。
けど隠れてる矢口は、心臓がすごくバクバク。
昨日の今日で合わす顔がないから心の準備もなくて、とてもここに居続けられる状態ではなかった。
今直ぐにでも逃げ出したかったが、隙をついて明人が「動かないで」と小声で阻止してきたから、身動き出来なくなる。

「うん?アキ君、そっちに誰かいるの?」

「いやいや、誰もいないよ。なんか虫が飛んでる気がしてたんだけど、僕の気のせいだったみたい。」



明人と黒崎

明人と黒崎は、3年A組の生徒で同じクラスメイト。
教室でも話してる仲なのか、2人の会話は親そうだった。

「それでねアキ君。それで、あの、前に相談にのってくれた話のこと、なんだけど・・・。」

そして黒崎は、あまり長居するつもりはないようで、さっそく本題へ。
言葉を辿々しくさせながら、そう言ってきた。
すると明人は一瞬だけど隠れてる矢口に目線をやって、

「ー・・・2年生の矢口くんのこと、だっけ?」

「!」

「あ・・・。う、うん。」

本人前にして黒崎と2人で、矢口の話をしだす。

「矢口くんで思い出したけど、今日の彼、見た?すごい怪我してたんだけど。」

「・・・あそこまで引っ叩いた記憶、僕ないのに。」

「ん?引っ叩いたって???」

「なんでもない、なんでもない。」



明人と黒崎 2

矢口も黒崎のその話を聞いて、すかさず明人にジェスチャー。
『この怪我は黒崎は関係ない』と、明人を通じて黒崎に伝えたかった。

「めぐから聞いたけど、昨日の夜。また商店街の裏路地でモメてたっぽいね。一晩、医務室で休んでたっぽいけど、もう動いて大丈夫とか。すごいタフだよねー、彼。」

「そう・・・、だったんだ。」

けど、そんな簡単にはいかなかったのか。
黒崎は余計にしゅん・・・っと、してしまう。
なので今度は、

「心配?矢口くんのこと。」

「・・・うん。」

黒崎の口から、それを矢口に伝えさせた。

「真央くん、最近よく矢口くんと頑張ってお話してたもんね。」

「・・・・・・・・・。」

その上で続けた話題は、矢口も自分の耳を疑った。



矢口への想い


「あれからどう?仲良くなれた?」

「・・・どう、なんだろう。」

「え?」

「なんか・・・。よく分かんなくなっちゃった・・・。」

明人と黒崎の会話は、ここには矢口はいない。
片方がそう思っているから、続けて出来たお話。

「真央くん。それはどういう・・・。好きじゃなくなっちゃったの?矢口くんのこと。」

「ううん。今も好きだよ、純平君のこと。」

「!」

そうじゃなかったら昨日の今日で、本人前にして、こんな話出来ないから。

「矢口くんと何かあったの?」

「・・・・・・・・・。」



真央の想い


「純平君、最初は怖かったんだけど、1人の男の子として知る度に。関わっていくうちに、凄くいい人だって分かってきて。・・・だから僕とじゃなくて、僕以外の人と幸せになってほしいって気持ちのが強くなっちゃって。」

やっぱり『そういうこと』へ繋がったけど、『そういうこと』には繋がらなかった。
矢口もこんな形で黒崎の気持ちを知るとは思わなかった。

「純平君の世界は、もっと広大で、いろんな可能性に満ちているはずだから。いつも図書室の隅で本読んでるこんな僕といるのは、すごく勿体ないことだって気付いたから。」

「真央くん・・・。」

「アキ君、今までありがとう。それと色々と巻き込んじゃってごめんね。」

『そういうこと』になれなかった理由を聞いたから。
でもそれはちょっと遅すぎた。

「アキ君が相談にのってくれたおかげでここまでこれたけど、僕はもう十分だから。今日は最後にお礼を言いに来ただけだから。だからこのお話もここでー・・・、おしまい。」

「・・・・・・・・・。」

『おしまい』を口にした黒崎は終わりの果てにいて、それを受け入れたあとだったから。
黙って聞いていただけの矢口も、その言葉だけで何も言い返せず、身を潜めた力を尽かせて黙ったままでいた。
どんな物語にも終わりが存在していて、望んだ結末じゃなかったとしても、おしまいを迎えた以上そこでおしまいなのだから。



真央への想い

そう言って黒崎は明人に伝えたかったことを伝えると、これで用件が終えたのか家庭科室から出て行った。

「真央くん追わなくていいの?矢口くん。」

その背を見て、明人はすぐにそう言ってきたが、矢口は首を横に振って拒否。

「・・・今、行ったところで、真央の何の為になる。真央は今、終わりを口にしたんだ。ここでおしまいだって。なのにそこで俺が追ったりしたら、真央には迷惑にしかならない。」

黒崎の後を追えない。
追える資格は自分にない。
それが昨日の時点で、既に分かっていること。
矢口は黒崎にフラれた後だから。
だったら自分も、この終わりを受け入れる方が、ずっと彼の為になる。
この物語は、ここでおしまいなのだから。

「そう・・・。じゃあ矢口くんも真央くんとのこと、ここで終わりにしちゃっていいんだね?」

「・・・ああ。それが真央の望みなら。」



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