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青 ノ 葉
男子高校生たちのお緩い物語
[男子校全寮制][日常系青春コメディ]



#70 青ノ葉 雨模様(3)(5/5)
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自分を語る矢口の家庭環境


「でも寮以外で人が作ったカレーを食べるの、久しぶりだったな・・・。」

「寮生じゃ、そうなっちゃうよね。」

そして話をちょっと戻して、改めて。
偶然だったけどカレーをご馳走してくれたお礼を言う。
昼飯食わずに、ずっと寝て過ごしてたから、空きっ腹に入るご飯が、凄く有り難かった。
本当に美味しくて、久しぶりだったから。

「いや。実家でもあんまり食った記憶ないから。」

「おうちカレーって月に1回以上は、絶対レベルで家で食べない?」

「・・・・・・・・・。」

これもさっきのに関わってる話。
自分の話を語るのは躊躇いがあって勇気がいたけど、少しだけ話せた。

「俺・・・、家族に見放されてるから。金は渡されるが、家でご飯は、もう何年も食べてない。」

「えっ!?」

「さっき俺んち医療関係やってるって言ったろ。俺よりも弟のが優れてて容量も良くて、後継ぎを弟に決めてからは両親共、弟の英才教育で手ぇ一杯。」

今は黒崎と一緒にいるおかげもあって。



自分を語る矢口の家庭環境 2


「俺の面倒まで見る余裕がないから。俺が邪魔な存在になったんだろう。」

語って落ちる口は、何故か止まらなかった。

「だから望んでもない学校に。仕事伝手で知った寮がある学校にブチ込まれた・・・。だから俺にとって青ノ葉は、監獄に近い・・・かもな。」

「・・・!」

走るのが得意になったのは、弟がそんなに得意じゃなかったから。これなら自分の存在を知らせることが出来るって思ったから。
けど結果を残しても見向きされなかったから、何も意味がないと知った途端。全てが馬鹿らしくなった。
実際に馬鹿やったって、親からは何も言われないのだから。

「あの噂を知ったのは、馬鹿をやり始めた後の話。部活でも教室でも、いないのが当たり前になって、似た状況になってるから。俺は同じ目に遭わねえぞという意思表示でコイツを持ってる。」

「それで護身用と・・・?」

「・・・2代目だけどな。1代目は蹴り折られたから、元には戻せなくなった。一度でも壊れてしまったモノは、もう二度と戻らないんだな。」

カレーの話から、いきなりこんな重たい話をされて、黒崎も反応に戸惑っている。
無理もない。
矢口だって、こんなに話してしまうとは自分でも思わなかったから。



落ちた雷


「・・・悪いな。急にこんな話して。」

「ううん。僕こそ何て言うか・・・、ごめんなさい。」

するとその時、

「「!?!?」」

ドーンッと落ちた雷の音。
さっきからゴロゴロ鳴ってたから、いつかは落ちるだろうと予測していたけど、いきなり強い音がすれば誰だってビックリする。
ー・・・でも、だからって。

「・・・・・・!」

その拍子で抱きつくのは、ちょっと反則。

「おい・・・、ちょっと!?!?」

外の雨も強さを増して、停電で暗くなった室内で。
気付いたら矢口の体は、黒崎にしがみ掴まれるていたのだった。



明かしたいばかりに


「わ。ごめんなさい、ごめんなさい!」

黒崎もそれにハッと気付いて、我に返った途端、直ぐに矢口から離れた。
その様子は、凄く慌ててて、凄く焦っていて、凄く照れている。

「僕、雷とか大きな音があんまり得意じゃなくて、その・・・っ、つい。」

聞いてもない言い訳を言い出して、『つい』でやってしまった事実の裏を隠そうとしているようにも見えた。

「でもだからって純平君に抱きつくのは、良くないね。本当にごめんなさい。嫌な思いさせちゃって。」

だからー・・・。

「・・・いや。真央が謝ることはないだろ。」

それを『そういうことだから』に繋がった答えが、ついに矢口を暴走させる。



不確かで、曖昧


「来いよ。・・・別に、嫌じゃないから。」

「え!?」

一旦は離れていった黒崎を。
彼の腕をグイッと引いてまで、もう一度、自分の腕の中に戻す。

「ちょ!ちょっと待って、純平君!」

黒崎から感じる体温は、あたたかった。
梅雨時期はベタベタするから暑いのは嫌なのに、この温もりだけは不思議とそうじゃなかった。
だから今この場でハッキリさせたい。

「純平君!純平君ってば!」

不確かで。
曖昧で。
『そういうことだから』に繋がった答え。
『黒崎は俺のことが好きなんじゃね?』を、もっともっと。



重ねた唇

自分優先になってて、矢口を呼ぶ黒崎の声が怯えてることに気付かずに、

「ー・・・っ!」

その口を自分の唇で重ねて、ひどい形で奪った。

「・・・、んっ。」

何度でも。
何度でも。

「真央・・・っ・・・。」

「純平く・・・っ・・・んん!」

相手の気持ちが、ちゃんと分かってるフリをして。
怯えて抵抗しなくていいという思いを体で伝えて。
黒崎のこと、自分がどう想ってるのかすら、まだよく分かってないくせに。
色んなことを置き去りにして焦ったからー・・・。



紙一重でも違えば、そうじゃない


「ダメ・・・、純平君!やめてっ!!」

「!」

「お願い・・・、やめて。純平君。」

パンッと、頬を叩かれた意味が分からなかった。

「ごめんなさい。僕、確かに純平君と一緒にいてて凄く楽しかったよ。でもそれは純平君は友達だから・・・。友達だっただけだから。」

『そういうこと』に繋がった答えが、自分を強く拒まれるという展開を予想してなかったから。
本人の口から言われて、そこで初めて気付いたのだ。
答えに繋がる『そういうこと』は、初めから違っていて、『そういうこと』に繋がらないということに。

「純平君とは、こういう関係にはなれない。だからごめんなさい。」

「・・・・・・・・・。」

「僕とは友達のままでいて下さい。」

『ごめんなさい』と。
望んだ通り、今この場でハッキリさせられた。
この勘違いに、ひどく踊らされていたことを・・・。



青ノ葉 第70話をお読みいただきありがとうございます!

次回で、矢口エピソードのエピローグ
青ノ葉自体の物語は、まだまだ続きます


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