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青 ノ 葉
男子高校生たちのお緩い物語
[男子校全寮制][日常系青春コメディ]



#69 青ノ葉 雨模様(2)(4/5)
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僕の名前を呼んで

黒崎にいったい何が起きたかというとー・・・。

「僕の名前『アンタ』じゃない・・・。」

「は?」

矢口に自分の名前を、ちゃんと覚えてもらってなかったことを相当気にしているのか。
矢口の質問の内容に問わず、『アンタ』と呼ばれて、今朝のことを思い出し不機嫌になってしまう。

「ー・・・じゃあ、真央。」

「ちゃんと先輩付けて呼んで。」

「アンタ、ずっとそれ言ってるけど。意外と年功序列っぽいこと気にすんのな。」

「僕のが年上なのは事実だから。あと僕の名前『アンタ』じゃないってば。」

文句が始まれば言われっぱなしで、まるで永遠に続くような感覚が走る。
このままではこっちの質問は、ずっと答えてくれなさそうだ。



僕の名前をちゃんと呼んで


「・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・。」

それにおとなしく観念したのか。
矢口は、溜め息ひとつ。

「・・・・・・真央先輩。」

諦めて、彼の名前を。
黒崎の名前を、ご希望通りに呼ぶ。

「これでいいのか?「なぁに?純平君。」

「!?」

その途端、呼ばれた黒崎は、ニッコリ笑顔で元気にお返事を。
前のめり気味になってまでしてくれて、このあまりの反応に矢口も思わずびっくり。

「えっとー・・・、ごめん。何の話、訊かれたんだっけ?」

「・・・・・・・・・。」

けど色々と文句言ってたせいで、肝心な・・・。それほど肝心じゃないけど、こっちの質問を忘れられていて台無しになった。



謎じゃなくて単純に

なのでもう1回、同じ質問を。

「だからー・・・。真央先輩は、またその本読んでんのなって。」

今度は遮られないように。話題を変えられないように。
ちゃんと黒崎を先輩付けて呼んで、訊いた。

「うん。好きな話は何回読んでも飽きがこないから。だから返しちゃう前に、もう1回読んでおこうって思って。」

すると今度はちゃんと答えてくれたが、なんとも彼らしい回答。
だけどちょっと理解に苦しむ。

「そうか?何十回も読んでたら、先の展開を頭が覚えすぎてつまらくなってこないか?」

「うーん。不思議とこの本だけは、そんなこと起きないんだよ。」

「すげぇ謎現象起きてるんだな・・・。」

「ううん。そんなことないよ。もっと単純にー・・・。」

でもそれは、とっても真っ直ぐな答えだった。

「好きだからだよ。」

「ーーー!」

そして訊いた矢口の心にも、そのまま届いた。



一昔より購入しやすくなった世の中


「???」

そんな単純な答えにドキッとした気持ち。
一瞬だったけど確かに鳴った音に、意味が分からず矢口は思わず困惑。
(なんだ?今の?)と、疑問を抱いたが、深く触れなかった。

「そんなに好きなら買ったら?」

「みんなして同じこと言う・・・。」

「いや、まあ・・・。そんなに借りてたら誰だって同じこと言うと思うが。」

「これ昔の小説で、今は絶版本だから。なかなか売られるお店なくて。」

「店じゃなくて、ネットとかで。ほら、ネット通販だと普通に売ってるし。」

「わ!ホントだ!こんな探し方あるなんて僕、知らなかったよ!便利な世の中になったね。わー、すごいすごい。これなら僕のお小遣い範囲でも買えそう。」

だから適当に話を合わせて、適当に誤魔化し、適当に気のせいだと自己解決する。
本当に一瞬だったから、何だったのか、よく分からなかったのは事実だし。



どんな物語にも

その一瞬の話は置いておき、その本に関してもちょっと気になる質問が。

「その本って、続きないのか?」

読ませてもらった後だから、その本が面白いのは分かってる。
けど続編が出て長作になってもいいぐらいな内容だった。

「噂じゃ出る予定もあったっぽいけど、何かしらの事情があったのかな。結局、噂までで止まっちゃって、この本だけで終わっちゃった物語なの。」

「・・・そっか。」

でも黒崎は、この話に続きはないと。
これでお終いな物語だと教えてくれた。

「なんかちょっと残念だな。」

「うん・・・。でも仕方ないよ。どんな物語にも、必ず終わりがある。・・・から。」

と。



一緒に存在する始まりと終わり


「どんなに長くても、果ては必ず存在しているから。それが望んだ結末じゃ、なかったとしても。そこが終わりの果てである限り、それはもう、ここでおしまい。これで、おしまいー・・・なんだよ。」

それは色んな本を読んできた黒崎だからこそ、終わりを受け入れる為に生まれた結論なのか。

「・・・例えば、作者が何かしらの事情で、書いてた話を途中で書けなくなったしても。いつか続き書いてくれるのかもしれないが、その望みが薄くても、か?」

「読み手としては、どれだけ遅くなっても、いつでもいいから続きを読みたいけれど。その都合は、どうしようもないことだから。」

「そっか・・・。」

寂しいような。
悲しいような。
切なくなるような。
そんなことを述べた。
その時、

「ーーー!?」

「ど、どうしたの?純平君!?」

急に物音が聞こえてハッとした矢口。
寝込んでいた体をガバッと起こして、図書室の出入り口を見る。



聞いていたのは誰?

そっち方向が何か気になるのか。

「ー・・・真央。今、誰かそこにいなかったか?」

「え?今は昼休みだから、少ないけど利用してる数人の生徒はいたよ。ずっと、さっきから。1年生から3年まで。」

「なんか、今・・・。そこに知ってる顔の奴がいた気がして。」

ずっと視界はそっちを見たまま。
誰がいたのか気にしていた。

「いたとしても、その人、普通に本を借りにきただけじゃないの?純平君に用があったら声を掛けるだろうし。」

「・・・・・・そっか。」

でも黒崎が言ってることも一理あって、そっちの方が納得出来たのか。
今の話を立ち聞きして逃げる理由も検討つかないから、矢口はそれで解する。
扉の向こうに行ってしまった誰かの後を追うことなく。



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