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青 ノ 葉
男子高校生たちのお緩い物語
[男子校全寮制][日常系青春コメディ]



#51 学寮戦の裏側(2/4)
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その頃の矢口 6

「どこ行くの!?」

腕を組まれ、思いっきり捕まった矢口。

「・・・、離せよ。」

「だーめ!」

後悔していたはずなのに。
黒縁眼鏡の男子生徒は、絶対にその手を意地でも離そうとしなかった。

「しかも矢口君、寮生だよね?何でこの時間で街中にいるの!?」

「あんたに関係ないだろ。」

「あるよ!僕だって矢口君と一緒の青ノ葉生だから。下級生が門限までにちゃんと戻ってなければ心配になるよ。」

「・・・なっ。」

「もう、本当にちょっと待って。一先ずめぐに連絡しておくから。」

そして捕まえてない方の手で自分の携帯電話を取り出し、ピポパと登録していた永瀬の番号へ繋げ、矢口のことを伝えた。



その頃の矢口 7

「うん。寮長にはめぐから伝えてくれるみたいだから大丈夫っぽい。今日、寮でレクリエーションやるみたいで矢口くん不参加になっちゃうけどいいの?本当に戻らなくて。」

「どーでもいい。」

「そう・・・。勿体ないな。寮のレクリエーション面白いのに。」

すると永瀬の口から、あっさり了承されたようだ。

「あんた。あの会長と知り合い、なんだな・・・。」

「うん、クラス同じだから。それ以前にめぐは、僕の元ルームメイトでもあるから。」

これで寮の門限を気にする必要が、矢口にはない。寮長にお咎められるのは面倒だったから、正直これはありがたい話。

「そうか・・・。まあ、いちお助かったから礼は言う。じゃあ俺はこれで。」

「『俺はこれで』じゃないよ。どこ行くの!?」

でもそれにはちょっとばっかし条件があるようだ。



その頃の矢口 8

「あんたのおかげで門限なくなったんだ。あとは俺の好きにさせてもらう。」

「ダメだよ。僕んちに泊まるならいいよって話になってるからダメ。」

「・・・泊まるって、誰が?」

「矢口君。」

「・・・どこに?」

「僕んちに。」

矢口を泊めてくれるなら、こっちは大丈夫。
それが永瀬から伝えられた条件。
それ以外は門限外外出の違反として見なされ、もれなく寮長から何らかの罰が下るらしい。が、

「は?やだよ。なんで俺があんたんちにー・・・。」

「いいから僕んちに泊まってって。めぐ泣かせたくなかったら、おとなしく僕んちに泊まって。」

「・・・・・・。」

この条件を破ったら寮長のお仕置きよりも恐ろしいことが待っていたようだ。
永瀬のギャン泣きを阻止するためにも、黒縁眼鏡の男子生徒は必死に矢口を止めて、泊めさせようとしていたのだった。



その頃の矢口 9

『永瀬が泣く』というパワーワードを使われ、断れ切れなかった矢口。
このまま結局ノコノコと、黒縁眼鏡の男子生徒の下宿先へと連れて行かれた。

「僕の下宿先は祖父の家だから。だから矢口君も気楽にしていいよ。」

どうやら庭の離れに建てられたプレハブの平屋が、彼が住まう部屋のようだ。
中に入ると一目瞭然。
12畳ほどの室内は、本と本棚で埋め尽くされており、まるで小さな図書館のようだった。

「トイレは玄関入って直ぐそこ。お風呂とか洗濯機は母屋の方にあるから。あとで案内するね。」

大きなソファーが1つあるが、テーブルにキッチン、冷蔵庫、衣装ケースは小さく、本以外であったのはたったそれだけ。
あまり生活感はなく、この人がここで毎日どのような生活を送っているのか、見渡した限りでは全く分からなかった。

(マジか、これ・・・。)



その頃の矢口 10

そんな部屋で泊まることにされた一晩。

「矢口君。傷口手当てするから、そこ座って。」

「・・・結構。」

「ダメだよ、ちゃんと消毒しなくちゃ。そんなにいっぱい怪我してるんだから。」

っというか。さっきからこっちの『いいえ』を『ダメ』の一言で、ひっくり返されるのは何なんだろう?
またもや断りを断られて、手当てを受けさせられる羽目に。

「ごめんね、滲みるよ。」

「・・・ッ・・・!」

「わ、ごめんねごめん。でも我慢してね。」

ピンセットで摘まんだ丸い綿を傷口にちょんちょんちょんちょん消毒される度に、そこから鋭い痛みが全身に走る。
けど『ごめんね』からの『我慢してね』のコンボに、矢口は文句が言えない屈辱感を耐えながら抱いた。



その頃の矢口 11

「矢口君の名前って何て言うの?」

そんな中で問われた自分の名前。
改めてましての自己紹介を求められる。が、

「言ってどうする。あんたに関係な・・・。「え、だって僕、矢口君のこと矢口君ってことしか知らないから。だから教えてほしくて。」

「い・・・ッ!」

「わ。ごめん。つい力入れちゃった。」

手当て中の会話はちょい危険?
主導権はこの黒縁眼鏡の男子生徒の手にあるのか。
求めた答え以外で返した途端、『逆らうな』と間接的に言われたかのように、消毒液が染みた綿を傷口に思いっきり押し当てられる刑に処されたのだった。

「・・・純平。」

「じゅんぺい君?漢字はどう書くの?」

「糸へんに屯の純に平たい。」

「なるほど。矢口君の名前は、純平君って言うんだね。純平君・・・、純平君・・・。」



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