うそでかくしたほんね
「銀ちゃん、あたしのこと好き?」
ある日の昼前のこと。
今日も依頼がなく個々それぞれに過ごして静かな万事屋にあいつの声が響く。
ソファーに俯せになりジャンプのページを捲ろうとしていた俺の手がその一言でピタリと止まる。
俺だけじゃない。
洗濯物カゴを抱えたまま立ち止まる新八。
神楽は酢昆布をモグモグと食べながらテレビを見たままだが…。
「──はっ?」
「あたしのこと好き?」
「…なななななんだよ急に.........!」
「銀ちゃんがあたしを好きか聞いてるの。答えて。」
本当、急に何言い出すんだよこの子。
新八と神楽もいるのわかってんのか?
しかも机に頬杖ついて上目遣いで聞いてくるとか何その可愛い態度。
えっ、もしかして銀さんがコイツの事好きなのバレたの?
いやいやそんなはずねェよな。
バレないように必死に気持ち隠してたもの俺。
超自然に装ってたもの。
バレたなんてあり得ないから。
自意識過剰なんじゃねぇの?
あ、それ俺か。
俺はジャンプをパタンッと閉じるとそのままの体勢で横を向き頭を手で支える。
新八は相変わらず立ち止まったまま動かない。
神楽も………相変わらずだ。
えっマジなにこれ。
公開いじめですか?
公開いじめ担当は新八だろ?
なんで俺?
───っ!わかった…!
今日エイプリルフールじゃね?
あ、ほら!カレンダーに書いてあらァ…。
なんだよ、なるほどね。わかった、わァったよ。
お前がそうくるなら俺にも考えがある。
「んなもん.....聞いてどーすんだよ。」
「聞きたいんだもん。あたしは銀ちゃんが好きだよ?」
ゴトッと音がして新八が洗濯物カゴを床に落としたのは見なくても分かる。
な…っ!マジでかァァァァァァァ!!!!!
こいつ俺が好きだったのか?
いやいやいやないないない。絶対ない。
そんな素振り見せてなかったじゃねェか。
あ、もしかして俺と一緒で必死になって隠してたとか?
もしかして…両想い?的な?
もしかして来ちゃった?春が?銀さんにも春来ちゃった?これ。
ってちょっと待て、wait!落ち着け俺ェェェ!
今日はエイプリルフール!春は春でも違う春ゥゥゥ!
嘘の反対ってことだろ?
てことは……………。
「俺だって…お前が好きだ、けど......?」
今日がエイプリルフールで良かったわ。
嘘でも惚れてる女に嫌いなんて言えねェもんな。
あーあ…銀さん失恋したんですけど…。
失恋だろ?これ。
だってこいつは今日がエイプリルフールって知ってて俺に「好き」と言ってきた。
好きの反対は…?
ほら…な?
公開いじめならぬ、公開失恋。
今夜長谷川さんとパーっと飲みてェなァ…
あ、金ねェんだった。
沈みまくる気持ちを押さえてそう口にする。
「……本当に…?」
「…あァ。」
「うっ……ひっく………っ。」
「えっ、ちょ…!」
おいおい待てよ…。
なんで泣くんだよ?
言い出しっぺはお前だろ?
エイプリルフールだから、だから「好き」って……俺のこと好きでもなんでもねーのに言ったのはお前じゃん。
わけわかんねー。
つーか泣きたいのは俺の方なんですけど…。
机に顔を伏せて突然泣き出すこいつに俺は何も言えずガシガシと頭を掻きむしる。
「銀ちゃん、何泣かしてるアルか!」
今までこちらに見向きしなかった神楽が、やはり酢昆布を食べながら汚い目で見るようにこちらを向いている。
そーだよ…ここ万事屋ん中なんだよな…。
完全に不利じゃね?これ
「俺だってね、泣かしたくて泣かしたんじゃねーよ。」
「でも泣いてるネ!」
「……………涙は悲しい時だけに出るもんじゃねェ…。」
そうだわ、涙って嬉しい時にも出るよな?
嬉し泣きじゃね?これ。
「んなわけねェだろ、この天然パーマが!」
ですよねー………。
まず嬉し泣きする要素がないもんな。
好きっつってんのに嫌いってなんだよ。
なに?エイプリルフールって!
くそめんどくせー。
「銀さん…………まじですかそれ。」
今まで空気みたいだった新八が口を開く。
「本気で言ってんですか?それ…っ!」
なに?なんで新八がちょっとキレてんの?
言っとくけど言い出しっぺはこいつだからな?
こいつから言い出したんだぞ?
俺はガタッと立ち上がると声を張り上げた。
「だったらなんだってんだよ?こいつが言うから俺も返事しただけだ。今日はエイプリルフールなんだろ?だからこいつが俺に言ってきたこともわかってんだよ。でも俺は嘘でもこいつに嫌いだなんて言えなかった。ただそれだけだ。文句あっか?」
静まり返った万事屋に俺の荒い息だけが聞こえる。
言っちまったぞ俺…。
まじで公開失恋だバカヤロー。
「エイプリル........。」
「フール…?」
「神楽ちゃん…今日って…?」
「エイプリルフールじゃないアル。」
「だよね?あ、日めくりカレンダーめくり忘れてたのか。しょーがないなぁもう。」
新八と神楽の声の掛け合いで俺は気付いたこと。
今日はエイプリルフールじゃないらしい。
あれ?ってことは………あれ?
「銀ちゃん…あたしは銀ちゃんが好きなんだけど、銀ちゃんはあたしのこと好き?」
声がして目を向けると、泣いていたはずのあいつが笑ってそう聞いてきた。
────確信犯ですかコノヤロー。
「大っ好きだバカヤロー.........!」
end.
20210406 修正
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