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「シーカーさまは時折、いろんなものをお土産に下さるの。大きな革の袋にたっくさんのものを詰め込んで、いつの間にかこのお屋敷の前に置いていかれるのよ。村のみんなでそれを分けているの」
「では、あのモンフォワの絵もですか?」
「モンフォワの絵って?」
「あそこに掛けてある絵のことです」
「ああ、森の絵のこと? あれ、モンフォワって題名なの?」

 タラーイェにそう返され、ライナは縋るようにアリージュを見たが、彼女も妹と同じように「それが?」と言いたげな面持ちだった。

「……あの、シーカーさんからのお土産は、どんなものがあったんですか?」
「食器や絵画、使い方のよく分からないものまで多岐にわたります。ですけれど、基本的には他愛のないものです」

 真面目な顔で言ってのけたアリージュを前にして、ついにライナが頭を抱えた。ここで物の価値が分かる人間は彼女とルチアくらいなものだったので、残されたシエラ達には「高いものをそれと知らないで使っていたのか」程度にしか感じなかった。しかしどうやら、ライナにとってはそれだけの問題ではなかったらしい。
 シーカーがどういうつもりでこれらを“ただの土産”として彼らに贈っているのかは定かではないが、売れば間違いなく大金へと化ける代物ばかりだ。それも、そう簡単には使い切れないほどの財産になるだろう。
 屋敷に不釣り合いな調度品も、豪勢な食卓の理由も、これならば納得がいく。

「しっかし、なんだってンなことやってんだよ。結婚した女っつーのがこの村にいんのか? あの感じだと、一人や二人じゃなさそうだけどよ」
「シーカーさまを侮辱しないでください! ――これだから“外”の人間はっ……!」
「侮辱もなにも事実だろうが。さっきの見てなかったのか、アンタ。あのオッサン、コイツの足撫で回してたろ」
「下品なっ!」

 顔を真っ赤にして怒鳴るアリージュに、フォルクハルトがべえっと舌を出して挑発した。
 まさに火に油だ。途端に怒りを爆発させたアリージュが手を振り上げてしまったので、話どころでではなくなってしまった。
 難なく一撃を避けたフォルクハルトだったが、それによってさらに怒りを煽られたアリージュがオリヴィニス特有の言葉でなにかを勢いよく捲くし立て始めたのだ。意味は分からずとも、その剣膜から褒め言葉ではないことくらい容易に理解できる。
 気の短さには定評のあるフォルクハルトに、その攻撃を受け流せるはずもない。案の定喧々囂々(けんけんごうごう)の大舌戦が展開され、血相を変えてやってきた村長とヴィシャムによって二人は引き離された。
 用意された部屋に案内してくれたのは、タラーイェの方だった。先に男達を案内してから食堂に戻ってきた少女は、使い込まれた、薄汚れた手燭を持っていた。おそらくそれも黄金でできているのだろう。
 ぐっすりと眠ってしまったルチアとテュールを、ライナとシエラがそれぞれ抱いて運ぶ。といっても、テュールは竜化して眠っているので抱いていくのも簡単だ。
 星明かりの差し込む廊下を滑るように歩く少女は、姉よりもよほど大人びて見えた。

「あなた、竜王さまに会いたいんでしょう? 会ってどうするの?」
「加護を授かりに来た。海神の神託なんだ」
「……なら、シーカーさまには頼らない方がいいと思うわ」

 ぴたりと立ち止まったタラーイェが、静かにそう言った。

「シーカーさまはとっても素敵なひとだけれど、竜の中ではそうは思われてはいないの。上に行きたいのなら、別の竜を紹介してあげる。連れていってもらえるように、あなた達が話してみて」
「他にも竜の知り合いがいるんですか?」
「うん。でも、みんなには内緒よ。姉さんにも。あたししか知らないの」
「その竜に頼めば、竜王に会えるのか?」
「きっとね。彼は、お城で暮らす竜だから」

 口元を綻ばせて微笑むその表情は、少女というよりも立派な女のそれだった。ルチアも時折、こういった顔をする。
 それが一体どういうときに見せるものだったかを思い出すよりも先に、タラーイェが扉を開けた。擦りガラスのはめ込まれた木枠の扉の向こうに、色鮮やかな敷物が待ち受けている。
 どうやらここが部屋らしい。ひとまずルチアとテュールを寝台に寝かせ、シエラ達は一緒に部屋に入ってきたタラーイェを振り返った。


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