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 ユーリとクレシャナの結婚式の際、ドレスをあつらえるためだと言って侍女達に何度も採寸されたけれど、ドレスの試着が終わっても執拗にあちこち測られていた。どうやら彼女達は、シエラに新しい神父服を用意したかったらしい。
 聖糸が織り込まれた布で作られた衣服は、それだけで魔気の影響を防ぐことができる。だからどんな型紙から起こした服だろうと効果はあるのだが、まさかこんなことになるとは思ってもいなかった。

「しえら、にあう。きれい」
「そうか? まあ、なら……。ありがとう、テュール」

 用意されていたのは、一見するといつもと変わらぬ神父服だった。だが、広げてみるとズボンがなく、上から下まで一繋ぎになっている。腰から下が綺麗な線を描いて広がり、深々とスリットが入っているのが分かった。ズボンを入れ忘れたのかと思ったが、着てみるとなんのことはない。形こそ神父服に類似しているものの、それは足首の辺りまで丈のある長いワンピースだった。
 ボタンで合わせられるのは臍の辺りまでで、そこから下は切れ目が入ったような状態だ。静止していれば前面もしっかり隠れているが、動くたびに前が割れる。中に着込んだもう一枚の白地の薄いワンピースが、すべてが露わになるのを防いでいた。捲れ上がっても心配ないとはいえ、そちらにもスリットが入れられているため――それもかなり深いものだ――、歩くたびにちらちらと太腿が覗くのが気になった。
 百合の花を逆さにしたような袖には水の流れを模した銀糸の縫い取りが施され、全体的に見ても前回のものより細かな装飾が多い。日頃着飾ることがないシエラへ、ここぞとばかりにその技術と欲望を発揮した結果らしい。
 足を見せることははしたないんじゃなかったのか、と優雅なご婦人達の姿を何人か思い浮かべながら、シエラは小さく溜息を吐いた。
 膝上まである革のブーツは柔らかく、動きの邪魔をしない。裾が長いとはいえスリットのおかげで足も捌きやすく、十分に実用性を考慮した上での“作品”に、呆れと感心が一緒になって訪れた。
 城を出る前、道理で侍女達がそわそわとしていたわけだ。オリヴィニスから帰る頃にはこの服も汚れてしまっているだろうから、彼女達はもう何着か用意して待っているに違いない。前の神父服では最近胸の辺りがきつくなっていたので、ちょうどいいと言えばちょうどいいのだけれど。

「そういえば、ライナの服も変わっていたな。あれも侍女の仕業だろうか」
「せなかあいてた。きれい。らいな、あし、きれい! すき!」
「……テュール、お前男なのか?」
「わからない。てゅーる、こども。せいべつ、まだ、ない」

 目を輝かせて足が綺麗だったと語るテュールの頭を撫でてやり、シエラは慌てるライナの姿を思い出してくすりと笑んだ。ライナは自分の荷物は自分で詰めたらしいが、どうにも一杯喰わされたらしい。
 風呂から上がると、ライナは全身にタオルを巻きつけて蹲っていた。どうしたのかと訊ねると、真っ赤になった顔がこちらを見上げてくる。必死になって隠そうとするのでタオルを引っぺがしたところ、普段なら見えるはずもないすらりとした健康的な足が光の下に投げ出されていたのである。
 随分と斬新な衣装だった。白い上着は背中がぱっくりと開き、革の紐で編み上げられている。太腿の中ほどまでしかない短いズボンによって足が曝け出され、総レースの羽織が足首までを気持ち程度に覆っている。高度な技術を用いて織られた羽織は透けるほど薄くとも聖衣の役割を果たすが、ライナにとっては“衣服”の意味をなさないのだろう。
 大きな紅茶色の瞳に涙を浮かべ、彼女はしきりに恥ずかしがっていた。そのせいで、機嫌を損ねた彼女は夜の散歩に誘ってもついてこようとはせず、部屋に籠もって拗ねてしまっている。
 僧院にいる間は危険がないとのことなので、シエラは一人で歩くことが許されていた。どこにでも自由に出入りしていいと言われていたので、遠慮なく中庭で星見を楽しんでいる。ルチアもルチアで、今頃はどこかへ遊びに行っているらしい。

「テュール、ここには本当に竜がいるのか?」
「いる。りゅうのにおい、する」

 テュールはそう言うが、オリヴィニスに来てから竜など一度も見かけていない。これだけ見晴らしのいい土地にいるというのに、ちらとも見かけないのが不思議だった。
 なにしろここは、竜の国だという。竜は大鳥よりもずっと巨大な生き物だろうに、その影すら見えないということがあるのだろうか。


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