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「魔物を盾にするなど、なんとも浅ましい行いではありませぬか。それに、我ら聖職者に前線へ出ろとは……」
「竜騎士自らが出陣なされば、魔物も怖れをなして逃げ出すのではありませんか」
「やめたまえ。戯れを言っている場合ではないだろう? すまないが、誰か蒼の姫君を――後継者殿を呼んできてくれないか。エルクディアの案を検討するにしても、より詳細を訊ねる必要があるだろう。あの子は実際に魔導師と祓魔を行った経験を持つのだから」

 険悪な雰囲気を払うかのような国王の一言によって、シエラ・ディサイヤが招集された。
 漆黒の神父服に身を包んだシエラは、相変わらず冷たい美貌で集まった人々を一瞥した。歩くたびに蒼い髪が揺れる。筒状の髪飾りが光を弾き、時折金の双眸に別の色を映し込んでいる。
 入室したシエラに席を譲ったのはエルクディアだった。自らが座っていた上座に彼女を座らせ、自分はその背後に控える。誰の目にも完璧な従者の姿だ。

「さて、蒼の姫君。魔導師が使う銃は、対魔と対人とで使い分けているという話だったけれど、確かかな?」
「ああ。確かに使い分けているのを見た。ロータル・バーナーにも鎌をかけたが、否定していなかった」
「ということは、対人用では魔物には無効なんだろうか?」
「それは……」

 訊ねられ、シエラは軽く困惑した。この話は、リヴァース学園から戻ってきてすぐにユーリに報告していたはずだ。確証はないにせよ、無効である可能性が高いとも言っている。「多分そうだ」と答えかけ、シエラは自身に集中する視線を感じて声を飲んだ。
 今自分がここに呼ばれた意味を改めて考える。ユーリは本当に事実の確認のためだけにシエラを呼んだのだろうか。扉を開けた瞬間に感じた張りつめた空気は、決して居心地の良いものではない。青海色の瞳がなにかを待っている。それだけは分かるのに、その意図を汲み取ることまではできない。

「……無効だと、思う」
「だったら、エルクディアの案も実行可能なわけだ」
「お待ちください、陛下! それはあまりにも無謀です! 法術で魔物を拘束することは可能ですが、盾とするまで近づくことは危険すぎます!」
「盾?」

 話の見えないシエラが首を傾げると、ユーリは緊迫した状況など微塵も感じさせない笑顔で事の次第を説明した。単純だが確かにとんでもない話だ。大神官達が焦るのも当然だとシエラも思う。

「こうなってはあれこれ言っていても仕方がない。綺麗事だけではどうしようもなくなってきているのは、皆も分かっているだろう? この戦、なんとしてでも勝たなければならないんだよ」

 勝ってどうしようというのか、シエラには分からない。だが、そこでようやく彼女は、自分がここに呼ばれた意味を悟った。呼ばれたのはシエラ・ディサイヤではなく、あくまでも神の後継者なのだ。
 ユーリは、狙う首はロータルのものだけだという。ラヴァリルもリースも、彼に脅されて無理矢理従わされていたのだろうと言った。シエラにとって、彼らは友人だ。たとえ彼らの“一番”になれないのだとしても、友人が傷つく様は見たくない。

「……私は、エルクディアの案を支持する。聖縛で魔物を拘束し、兵士の盾に括りつければいい。その後ろに神官が結界を張れば問題はないだろう」
「なっ……、後継者様がそのようなことを仰るだなんて!」
「酔狂が過ぎまするぞ! いくら魔物とはいえ、生き盾など汚らわしい!」
「我ら聖職者は人の戦いに参加すべき者ではございません! 万が一命を落とせば、それだけアスラナが魔物の蹂躙を許すということになるのですよ!」

 あちこちから上がる抗議の声に、シエラは無意識に席を立っていた。玉座の手前まで階段を昇り、ユーリ以外の一同を見下ろす形でその場に仁王立つ。呆気に取られる彼らには構わず、シエラはエルクディアを呼びつけた。困惑しつつも、彼は素直に従ってシエラの元までやってくる。


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