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 だからといって、国民に「魔導師が魔物を操っていた」などと告げれば、その非難は巡り巡って聖職者側に向けられる。知っていたのならどうして彼らをのさばらせていたのかと、抗議の声が殺到するだろう。中には、両者が手を組んで自作自演をしていたのかもしれないと勘繰る者も出てくるはずだ。
 勝者には敗者を自由に扱う権利が与えられるとはいえ、ユーリとてすべての魔導師に石を投げたいわけではない。シエラとライナの報告を聞く限り、彼らと手を組むことも有益な未来をもたらす可能性を見出している。
 だが、ロータル・バーナーだけは見過ごすことができない。あの古狸はなんとしてでも引き摺り出し、特殊金属の入手先を聞き出した上で首を落とさねばなるまい。

「ベスティアが動く前に、片をつけたいね……」
「もしそのベスティアが銃を製造しているのだとすれば、今後の戦はより困難を極めます。ましてやロータルと通じているとすれば、件の魔導具で魔物を召喚することも考えられましょう」
「その通りだよ、セフレーニア隊長。そうなれば、貴女にも白百合の紋章を掲げていただかなくてはならない」
「異論などあろうはずもございません。しかしながら、鉄の弾はともかく化物は勘弁していただきたいものですね」

 黒髪の女騎士はどこか男臭く笑ったが、誰もつられて笑いはしなかった。やれやれとセフレーニアが肩を竦めたのとほぼ同時に、怒りで顔を赤らめていたフーゴがはっとして机を叩いた。

「魔導師の連中が撃ってた弾丸は、ひとっつも魔物に当たっちゃいなかった! あの混戦で、しかも魔物とあっちゃあ当てないように気を遣うなんてこたぁしねぇはずだ。なのに、一発も当たっちゃいねぇ。だとすりゃあ、魔物用の銃が人間に効かねぇのと一緒で、その逆もあるんじゃねぇのか!?」
「……効果の有無は不明だけれど、どうやら銃を使い分けているらしいという報告は神の後継者から聞いているよ。魔導師本人がそう言っていたらしい」
「本人が? だとすれば、信用に欠けまするぞ」
「それに、後継者様は随分と魔導師に肩入れしておられるようですし」

 ざわめき出す会議室の中、それまで沈黙を守っていたエルクディアがおもむろに顔を上げた。その姿を、ちょうど向かいに座っていたオリヴィエは目撃していた。深い琥珀色の目は冷たく、見定めるような目つきでエルクディアを睥睨している。腹を空かせた獅子が獲物を見つめる瞳と同じだ。
 当のエルクディアはそんな目を向けられていることに気づかず、玉座の王を見た。様々な言葉が飛び交う中、青年王は無言で言葉を促してくる。

「――対人用の銃が魔物に効かないのだとすれば、こちらも魔物を利用し、盾にすればいいのでは?」

 その一言に、ああでもないこうでもないと言い合っていた人々が一斉に口を噤み、エルクディアを見た。中でも聖職者の座に就くお偉方には大層衝撃な発言だったようで、わなわなと唇を震わせている。「おぞましい……」喘ぐような呟きは、神官の内の誰かから漏れ聞こえた。
 エルクディアの言い分はこうだ。魔導師によって操られた魔物を拘束して捕らえ、それを盾にして進軍する。神官の数を増員し、強固な結界で堅めてしまえば魔物による被害は防ぐことができる。あとはこちらの領分だ。銃弾が尽きたところで、あるいは隙ができたところで、戦慣れしている兵士達が飛び込み、一気に本陣を落とす。

「しかしだな、騎士長。それでは民意が、」
「ロータル・バーナーは神の後継者を我がものにせんとし、畏れ多くもアスラナ国王に反旗を翻した。謀叛の意ありとして粛清することは十分可能だ。狙うは古狸ただ一人」
「さすがは黄金の竜などと呼ばれる御人だ。よほど派手な戦が好きらしい」

 嘲笑を隠そうともしない卿に賛同するように、神官の一人が深々と頷く。


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