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「クレメンティア様が助けを望まれたときはどうなさるおつもりですか?」
「……国王軍側の、って意味なら、聞き入れられない。僕らは戦いに行くんじゃない。あくまで、二人の救出に行くんだ」
「その際、シエラ様のご同行をも望まれた場合は」
「それは……、正しいのかは分からないけど、今は……、少なくとも今の僕は、保護すべ……、どっちがいいんだろう、ごめん、まだ考えが纏まらないや」

 神の後継者という存在をどう扱えばいいのか、その頃になれば分かるだろうか。あの綺麗なお人形の動きによっては、この世界は激動する。魔物がもたらす災厄以上に、人々の生活に密接した変化をもたらすだろう。――国が、動くのだから。
 頭を抱えるシルディの額に一つ指弾をくれてやり、レンツォは肺に溜まった息を吐き出した。緊張感なく背伸びをするリオンの足を軽く蹴ってやれば、彼女は軍靴の先でレンツォの足先を踏んできた。

「とにかく、今は自国のことを優先に考えてください。あの国の戦がどれほどの規模になるかは知りません。案外さっくり終わるかもしれませんしね」
「……うん、そうだね、ごめん」
「分かってくださったのなら結構。それよりリオン。毎度のことですが、どうやってこれだけの情報を手に入れているんですか」
「あら、簡単よ。私には羽があるの。ふわっと飛んでいけばあっという間に手に入るわ」
「女狐に訊いた私が馬鹿でした」

 けらけらと笑ったリオンの情報収集能力の高さは、他の諜報員と比較して群を抜いている。一体どうやっているのか、その尻尾すら掴ませないところは見事としか言いようがない。
 ずくりと、こめかみの奥が痛んだ。眼鏡を外して眉間を揉み解す間、視界が遮断された僅かな時間に思い出したのは穏やかな波の音だ。そこに混じる美しい人魚の歌声が、疲れた心を癒していく。
 大国アスラナが神に愛された国だというのなら、この国は人魚に愛された国だ。なによりも清らかな美しい生き物の愛が、この国には満ちている。その海に血が流れることは、避けなければならない。

「……クレメンティア、大丈夫かな」

 婚約者の身を案じるその声を聞きながら、レンツォは静かに目を窓の外へとやった。
 ――あの国の土を踏むことになるのは、そう遠くはない未来の話だろう。
 

+ + +



 エルクディアの代わりに護衛としてヴィシャムとフォルクハルトがやってきたのは、城に戻ってきてからすぐの話だ。それまでは地方に遠征に出ていたという彼らは、神の後継者を前にしてもさほど態度を改めることもないため、シエラとしても気楽な相手だ。
 男性にしてはいささか身長に恵まれなかったフォルクハルトが、ライナが淹れた紅茶を一気に飲み干して寝椅子(ソファ)の上に胡坐を掻いている。その隣では顔立ちの整ったヴィシャムの膝の上にはルチアが座り、その腕の中にはテュールが収まっていた。なんとも微笑ましい光景だ。
 窓際の丸テーブルでお茶を楽しんでいたシエラとライナは、嘘のような穏やかさに言葉なく戸惑っていた。傍らに控えるバスィールの視線は常に感じるが、どういうわけか心地いい。監視されているようで落ち着かないはずなのに、彼の紫銀(しぎん)の視線だけはそうは感じないから不思議だ。


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