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 シエラは無意識に己の長い髪をいじりつつ、出てくる欠伸を噛み殺した。いつになれば終わるのだろう――そんな暢気なことを考えて。

「受け取っていないだと? 馬鹿を言うな、ちゃんとリヴァース学園の印が押された手紙が――」
「あっ……!」
「届けられて…………――ハーネット?」

 なにやらごそごそと制服の内側を探っていたラヴァリルが、リースの言葉を遮るように声を上げた。
 皆の視線が集中した先には、ややくたびれた封筒が存在した。赤い蝋印は彼らの胸元についている校章と同じ模様をしている。
 彼女が引きつった笑顔でそれを裏返せば、『国王陛下ユーリ・アスラナ様』と記されていた。
 ぴしりと石化していたリースから、地を這うような静かな怒声が迸る。

「どういうことだ、ハーネット……!」
「あっははー……理事長に出しとけーって言われたんだけど、あっれー、おっかしいなー」
「笑って誤魔化せると思うな。もしこれで理事長になにかあったらどうするつも――」
「だ、だいじょーぶだよ多分!」

 静かだが激情を宿した声音に、うつらうつらとしていたシエラがぱちりと目を開けた。呆れた風情で見守るユーリとは反対に、険を帯びたライナが刺々しい目で彼らを――正確にはリースを――見据えている。
 そんな様子が少し似ていると感じたのだが、わざわざ口にするのも面倒なので大人しく沈黙を守ることにした。
 どこからか聞こえてきたのは青年王のため息だ。青年王はラヴァリルから手紙を受け取ると、その場で開封して目を通す。
 途中乾いた笑いを浮かべた青年王に、リースが鋭い眼光を浴びせていた。

「なるほどね、大体事情は把握できたよ。 細かな話はあとで聞かせてもらうが、とりあえず今回のことについては目を瞑ろう」
「なっ、おいユーリ、本当にそれでいいのか? こいつらを罪人として裁くことは十分可能なはずだろ!?」
「――彼らを聖職者と魔導師の架け橋に。そう言って送られてきた二人を刑に処せば、関係はますます悪化し、やがては今の王政にまで影響が及ぶだろう。今回の騒ぎで出た死人は山賊二名。他はいずれも軽傷で済んでいる。……この意味が分かるね?」

 黙って見過ごせと言っているのだということは、シエラにも理解できた。
 少々手違いがあったからとはいえ、彼らは正式な魔導師側の使者に値する。だから今は様子を見ることが先決なのだとユーリは言うのだ。
 それがどれほど、不本意なことであったとしても。

「陛下、そのようなことをこの場で決めてよろしいんですか?」
「ああ、構わないよ」
「……必ず批判されますよ」
「だろうね。だけどライナ嬢、私は王だろう?」

 絶対の自信が込められた微笑にライナが押し黙る。
 じっと彼らのやり取りを静観していたシエラは、急に感じた悪寒に腕を押さえた。肌に突き刺さる視線の先を辿れば、紫水晶の瞳とかち合う。
 ――浮かぶのは、憎悪の色。

「それじゃあ、君達に城内滞在許可を与えよう。蒼の姫君達との同行もね。けれどその分、しっかり働いてもらうよ」
「えっ、ほんとにいいんですか!?」
「もちろん」

 だけどね、と続けるユーリの爽やかな表情を見て、エルクディアが思い切り眉をひそめた。
 嫌な予感がすると呟いた彼は、落ち着かないまま言葉の続きを待つ。

「このままずっと城に住まわせるわけにはいかないだろう。だから、ここにいる間は客人として、エルクの部屋を使いなさい」
「待て待て待て! なんで俺の部屋なんだ、なんで! 客室なら数え切れないほど空いてるだろ!」
「そうは言っても、城を爆破した人間を客室に迎えると色々うるさいだろう? キミの部屋がちょうどいいじゃないか」
「じゃあ俺はどうするんだ!」
「蒼の姫君と同室になればいいだけの話だよ」

 キミにしては愚かな質問だね、と言って笑うユーリを前にエルクディアが絶句した。



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