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「…………あのー、レンツォ? 今、その……聞き間違いかなあ? そのね? さっき、とんでもない言葉が混じってた気がするんだけど、気のせいだよね?」
「ええ、そうですね。私は魔神ではなく人ですから」
「いやっ、そこじゃなくて!!」
「じゃあなんですか? はっきり言いなさい。ちなみに私は熟女よりも幼女派です」
「それぇええ! それ! 君なにやってるの!? いくらレンツォでも犯罪は許さないからね!?」
「じゃああなたは、しわしわのババアとぴっちぴっちの少女なら、しわしわの方がいいんですか」
「そうじゃないでしょ!? そうじゃないよね!? ――っ、もうやめて、なにも言わなくていいから! もうこれ以上聞きたくないからぁっ!」

 わんわんと喚くシルディを見て、子供達は顔を見合わせた。「王子なにやってるの?」そんな声も今の彼には届かない。
 レンツォは迷惑そうにしながらシルディを制し、何事もなかったかのようにその場にいる子供達の人数を数え始めた。
 男女合わせて合計十三人。年齢はまちまちだが、さほど大きな開きもない。よし、と一人頷いて、レンツォがシルディの腕から包みをひょいっと奪い取った。
 抱えて持つのがやっとだった荷物を片手で、それもあっさりと持たれ、シルディとしては複雑な気分だ。彼が紙袋から大きな瓶を取り出すと、子供達はきゃあっといっそう黄色い声を上げた。

「はい、この砂糖菓子欲しい人ー」

 レンツォの間の抜けた問いに、子供達は喜色満面で一斉に手を挙げた。びしっと元気よく挙げられた全員分の手に、「これだからガキは」とレンツォが小さく嘲笑するのを、シルディは聞かなかったことにした。
 瓶の中に入った色とりどりの砂糖菓子は、まるで星のような形をしていて見た目にも愛らしい。シルディもこの菓子が好きで、執務の間につまむことが多々あった。

「それじゃあ、毎日欲しい人ー」

 またしても全員が手を挙げる。

「なら、そこのちっさいガキと隣の薄茶のガキ、それから一番でかいのと、そこの将来有望そうなお嬢ちゃんこっちへ来なさい」
「ねえ、もうなにをどこから注意すればいいか、分からなくなってきたんだけど」

 脱力するシルディを無視し、レンツォは自分のすぐ近くに四人の子供を集めた。そして、残りの子供達にシルディの側に行くように指示する。
 子供達は誰もが、砂糖菓子をもらえると期待に満ちていた。きらきらした眼差しでレンツォとシルディを見つめ、「はやくはやく」と二人を急かす。
 しかしレンツォがすぐに砂糖菓子を配るわけもなく、彼は子供達の前で二粒ほどそれを取り出し、ぽいっと自分の口に放り込んだ。

「ああーー!」
「ずるいっ、ずーるーいー!」
「へんじんのバカぁ!」

 十三人分のヤジが飛ぶ。大人げなくふんっと鼻でそれらを一蹴するレンツォに、シルディは頭を抱えてその場にしゃがみ込みたくなった。
 わざと音を鳴らして砂糖菓子の詰まった瓶を掲げ、彼は自分の近くにいた子供達に手を出すように言った。

「今からあなた達は、特権階級保持者です。で、そっちの残りは一般市民。分かりましたか?」
「とっけんかいきゅーほじしゃー?」
「それってなーに?」
「……そんなことも分からないのか、最近のガキは」
「えっとねー! 特権階級保持者っていうのは、いろんなことが特別にできちゃったりしてもらえちゃったりする、まあ……偉い人、って感じかなあ」

 レンツォの舌打ちと毒舌を遮るために前に出たシルディだったが、説明している途中でその内容に疑問を抱く。「特権階級の人は、偉い人」簡単に言えばそうなる。けれど、本当にそういった人々は偉いのだろうか。
 大貴族の家に生まれたばかりの赤子がいるとして、その赤子はなにもやってはいないのに、汗水垂らして働く農夫よりも「偉い」のだろうか。
 言ったところで仕方がない。子供達はシルディの説明に納得し――実際は理解できていなかったとしても、理解したつもりなのだろう――、与えられた「偉い立場」のごっこ遊びに喜んだ。

「ええー、俺たちしょみんかよー」
「日頃から庶民なんですからいいでしょうに」
「それで! そのお菓子、どうするの?」

 シルディのこの質問により、子供達が色めき立つ。レンツォは噴水近くの長椅子に四人の子供達を連れていくと、自分も含めて五人で横並びで座った。初めは少女を己の膝に座らせようとしたのだが、シルディが全力でそれを阻止したのは、公にできそうにもない事実である。


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