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*第22話


 わたくしがもしも籠の鳥ならば、どうかそのまま、青海に沈めていただきたく思います。



海神の謳



 空はそこにありますか。
 雲一つない晴れ渡った空の下で、少女は祈るように手を合わせた。

 海はそこにありますか。
 深く澄みきった海の上で、少女は祈りの言葉を声に乗せた。

 青はそこに、ありますか。
 潮風が少女のヴェールを翻す。ゆっくりと押し上げられた瞼の下からは、空と同じ色の丸い瞳が顔を覗かせた。濡れた瞳には青が広がっている。彼女は青を見つめ、そして痛みを隠すように俯いて笑った。
 つきり、つきり。小さな歯車が軋むように、胸が痛む。

「言葉にすれば同じ“青”なのに、なにゆえこんなにも色が違うのでしょう」

 少女の声は、まるで人魚の歌のようだった。
 空と、海と、古の声。それらが重なると海神(わだつみ)が姿を現すというのは、どこの国でもよくある伝承だ。人魚はホーリーの海に多く生息していると聞く。美しい姿と声で魅了する幻獣は、かの国の誇りだ。現に、あの聖なる国の紋章は人魚を象っている。
 この国の紋章はなんだったか。それすらおぼろげだというのに、鮮やかな海の青さだけは記憶にこびりついていた。

「もうすぐ、でしょうか」
「ああ、きっとな。楽しみだなあ、姫さん」
「ええ、とても。……とても、楽しみにございます」


 少女はか細い指を飾っている小さな指輪に、愛おしそうに口づけた。



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