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「蒼い髪、金の目……。しかもかなりの上玉ときた。ルグ、神の後継者を捕まえてくるたぁ、やるじゃねぇの。カミサマに怒られんぜぇ?」
「私が信じているのは、神ではなくベラリオ様ですから」
「はっ、よく言うぜ。ま、俺もカミサマなんざ信じちゃいねぇが……、世間サマはそうはいかねぇもんなぁ? 名前、なんつったっけか。――おい、これ取ってやれ。喋れないと面白くねぇだろうが」

 命じられたままに男達がシエラの猿轡を外した。貪るように大きく口を開けた彼女の顎を掴み、仰向かせる。猿轡を外されても、彼女はなにも喋らない。ただ強く睨みつけてくるだけだ。
 頬に触れようとすると、拘束されているにもかかわらず、金髪の男が大きく身を捩ってそれを阻もうとした。見覚えのあるその顔に、ベラリオはしばらく記憶の糸を辿った。金の髪、緑の目。細身に見えて、しっかりと筋肉のついた体つき――、そして、記憶にある顔と目の前のそれが一致した瞬間、嗤いが爆発した。

「くっ、ひゃははははっ! んだよ、フェイルス総隊長サマじゃねーか! くくっ、なんだよそのザマ! 確かにこいつぁ暴れ竜に間違いねぇわ!」
「うっそぉ、これがアスラナの竜騎士!? ルチア、初めて見たぁ」
「見とけ見とけ、これがあの大国アスラナの自慢の坊ちゃんだ! 随分とイイ格好してんじゃねぇか。ここに来るまでに遊ばれちまったか?」

 ひゃは、と喉の奥から笑みが零れた。大剣を椅子に立て掛け、ルチアが跳ねるようにエルクディアの前に立つ。
 覗き込んだ顔色は悪く、頬はこけている。傷も痣も浮かんだその顔立ちは、それさえ除けば貴族の息子そのものだ。これが戦場を駆け回っているとは思えない。唇は赤黒く腫れ、血が滲んでいる。殴られでもしたのだろうか。ルチアは華奢な指で、布の上から口の端をそっと押した。表情は変わらない。小猫のように愛らしい声を零し、彼女は同じ場所を強く押し込んだ。エルクディアの顔が僅かに歪む。

「あっはは! ベラリオさま、いったそーだよ! ねぇ、ちゅーしていーい?」
「好きにしやがれ。間違っても毒飲ませんなよ」
「分かってるよぉ。ルチアそんなことしないもーん。えへへ、ちゅー」

 愛らしい少女の唇が、布を噛まされたエルクディアの唇に押し付けられた。即座に顔を背けようとする彼の頭を腕で固定し、ルチアは何度も角度を変えてその唇を貪った。傷の上に小さな白い歯が容赦なく付き立てられる。血が滲むほど強く噛めば、「やめろ」と声がかかった。
 暗い赤紫の髪が揺れる。エルクディアの首に腕を回したまま振り向いたルチアは、己に向けられる強い眼差しにうっとりと目を細めた。

「なぁに? 後継者さまも、ルチアとちゅーしたい?」
「……エルクから離れろ」
「エルク? ふぅん、エルクっていうんだ? あっ、もしかして! 後継者さまは、エルクとちゅーしたいの?」
「離れろ!!」

 掠れた怒声を浴びても、ルチアは微塵も怯んだ様子を見せない。まるで小さな子供に言い聞かせるかのように、彼女は言った。

「そぉんなに欲しいなら、返してあげるよ?」

 薄すぎない唇をそっと奪う。抵抗など許さない。しっかりと顔を両手で固定し、膝をつく彼女を無理やり仰向かせて舌を捻じ込んだ。焦りか怯えか、逃げ惑うその舌を追い、引きずり出し、傷をつけない程度に歯を立てる。
 痛みに震えた体を手のひらに感じ、ルチアは満足げに顔を離した。


 ――ああ、ほら、とってもきれい。


「ねぇねぇ、血の味した? それね、それねっ、エルクのだよぉ?」
「お前っ――、ふざけるなっ!!」
「まぁそう怒んなよ、イイ思いしたろ? もっとハマれば天国だって夢じゃないぜ?」

 目元を赤く染めたシエラは思いつく限りにベラリオを罵倒したが、その言葉は随分と拙いものだった。どうやら彼女は罵倒の語彙をあまり持っていないらしい。
 伝説の神の後継者に、アスラナの騎士長。そして残る一人はどこかの貴族だ。最後は最早どうでもいい。眼中にない。


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