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「ベッラリッオさーまっ!」

 明るい声と共に後ろから飛びついて来た少女は、裸体に透けた布を羽織っただけのあられもない姿をしていた。肩につかない髪は乱れたままで、熱の残った頬が情事のあとを匂わせる。少女はか細い指を屈強な肉体に艶めかしく這わせ、その唇を耳に寄せた。
 触れられた個所からじわじわと熱が移る。

「ベラリオさま、ルチアね、はやく聖職者さまと遊びたいなぁ」
「さっき俺が遊んでやったとこだろうが。この淫乱」
「むぅう、だってぇ。ルチア、いじめられるのも好きだけどぉ、いじめるのも好きなんだもん。あのねぇ、聖職者さまのね、きれーな銀の髪の毛が、まぁっかに染まるの! あーんなにきれーなのに、芋虫みたいに地面を這い回って、よだれを垂らしながら助けてぇって言うの。あーあ、はやく遊びたいなぁ」

 盛り上がった肩の筋肉に軽く歯を立て、ルチアは笑う。無邪気を体現したような笑みなのに、ぞっとするほど淫靡だった。先ほど解放したはずの熱が再び湧いてくるのを感じ、ベラリオはそのまま少女を組み敷く。きゃっきゃとはしゃぐ声の中に、まだ色はない。
 大人が五人並んで寝ても余裕のある寝台の上で、まだあどけない少女を押し倒している。日はまだ高い。遥か昔に捨て去った道徳観が、胸の奥で快楽を引き出す鍵となる。
 常識も道徳も踏み躙る。すべては力が支配すればいい。綺麗なものは愛で、そして壊す。壊した先にさらなる美しさがある。壊れたものを見たときの、あの虚無感と快感は凄まじい。
 ちゅっと愛らしい音を立ててベラリオの耳の付け根を吸ったルチアは、剥き出しになった胸を隠そうともせずに大きく伸びをした。暗い赤紫の髪がふわりと揺れる。そのたびに花の香りが鼻腔をくすぐり、あどけない少女は途端に女を感じさせるのだ。

「ルチア、退け」
「なによぅ、ファウストにーさま。寝てたんじゃなかったのぉー?」

 ベラリオの背に、ひやりとした手が触れた。そのままぎゅっと首に手が回されてしがみつかれる。薄い胸板は柔らかさなどなく、骨ばった硬さを素肌に伝えてくる。頬をくすぐる髪は、目の前で横たわるルチアと同じ暗い赤紫だ。柔らかなそれを片手で掴めば、細い面(おもて)が降りてきた。
 そのまま乱暴に引き倒せば、眼下に沈んだ二人の姿が顕わになる。並べて見るとよく分かる。この二人はとても似た顔立ちをしている。似ているといっても、片や少女で片や少年だ。肉のつき方は似ても似つかない。唇を尖らせて目を逸らすファウストの浮き出た肋に、ベラリオは武骨な指を這わせた。骨と骨の間を確かめるように、ゆっくりと指を滑らせる。時折ぐっと押しこんでやれば、血色の悪い少年の頬に朱が差した。

「妬いてんのか、お前。ん? どうなんだよ、言えよ」
「ベラリオ、さま、――っ!」
「ああー! ずるぅい! ベラリオさま、ルチアにもちゅうー!」

 濡れた唇が渇く暇も与えられず、強引にルチアに唇を奪われる。小さな舌が懸命に追いかけてきたと思えば、ベラリオの指を熱いものが包み込んだ。ねっとりと絡みつくそれは、つい今しがた味わっていたものだ。
 与え、そして与えられる快楽に、腹の底から笑いだしたくなる。健気な奉仕を受けながら、ベラリオは込み上げてくる衝動のままに少女の喉に噛みついた。甘い悲鳴が漏れたところで、隣のファウストが剣呑に目を細める。

「お前も遊んでやっからちょっと待ってろ。昨日はお前が先だったろーが」
「違います」
「ああ?」
「――違います。誰か、来ました」



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