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「確かに、そちらの騎士長さんの仰るとおり。ですがそれは、ライナ・メイデンがアスラナの聖職者であるから、でしょう? 我々が問題にしているのは、神官ではなく、エルガートのファイエルジンガー家ご長女様なのですよ」
「……どういう意味だ」
「そのままの意味です。……ああ、いえ、一つ訂正しましょう。アスラナの神官としても、そのうち問題視することになるでしょうから。エルガートの柱の一つであり、アスラナの神官であるお嬢様が三国聖同盟を破るとは――実に、大変な事態になりそうですね」
「ふざけるな! ライナはなにもしていない!」
「そうですか。……ああ、そうそう。ちなみに最近、このホーリーにも聖職者狩りが話に上るようになってきておりますが、ご存じですか?」

 聖職者の髪や装飾品、果ては血肉を狙う聖職者狩り。
 その多くは集団で行われる。

「それがどうした。……まさかっ、ライナがそれに巻き込まれたのか!?」
「さて。私の知ったこっちゃありません。もし関与していたとしたら――、むしろ逆ではありませんか?」
「……どういうことだ」
「物分かりの悪いお方ですね。これが神の後継者ですか? まあ私は、もとより神の管理する世界などに興味はないので、無能だろうが無知だろうがどうでもいいですが」

 小馬鹿にするように鼻を鳴らし、レンツォは空(くう)に指を滑らせた。それは明らかにシエラの首を横一閃に薙いでいる。

「あなた方の大好きなライナ・メイデン神官が、とある聖職者狩り集団に、この世でたった一人の奇跡のお姫様を売ろうとしていた――そんな話もあるのですよ」

 馬鹿げている。怒りで目の前が赤く染まりかけた。アスラナの聖職者が聞けば、目を剥きそうな台詞だった。なんの気なくさらりと言い放たれるのと同時に、シエラ達の耳にガラスの割れる甲高い音が突き刺さる。
 すべての視線が窓に集中する。曇りなく磨かれた大窓を外側から突き破った犯人は、鋭い破片と共に床に転がり落ちていた。
 光を反射させるガラス片の中に、一際輝く大きな欠片がある。――いや、あれはガラスではない。

「テュール!? どうした!?」

 慌てて駆け寄り、力なく横たわる小竜を拾い上げる。緑の濃淡が美しい小竜は衰弱しきっており、ぜいぜいと荒い呼吸を繰り返す口元には、やや重みのある紐がくわえられていた。
 シエラの手元を覗き込んできたエルクディアが、目を見開く。ぼろぼろに擦り切れたそれには、見覚えがあった。ここまで飛んで戻ってくる道中に汚れたのか、それとも、運ぶそのときからそうなっていたのかは分からない。
 だが、テュールがライナの腰紐だけを持って戻ってきた。
 それは十分に、彼女になにかあったことを示していた。

「……きったない竜ですね。あの窓ガラス、特注なんですが」

 吐き捨てるようなその言葉に、かっと頭に血が上った。

「自分の王子になにかあったかもしれないというのに、よく平気でいられるな! お前、それでも従者――いや、人間か!?」
「『人間か』ですか。随分と面白いことを聞くんですね、あなたは。その台詞は私よりもよほど、あなたにお似合いでしょうに」

 どくん、と耳の奥で心臓の跳ねる音が聞こえた。口が乾く。指先が急激に冷えていく。
 


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