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「……なん、なんだ、一体……」
「が、がうー?」
今までとは違う。安心感など微塵もない。今はただ、不安だけが津波のように押し寄せてくる。頭からシエラを飲み込み、暗い海の底へ引きずり込もうと猛威を奮う。
触れられた頬が燃えていた。かつてないほど早鐘を打ち鳴らす心臓に、気が狂いそうだ。
ずるり、と、腰が落ちた。テラスの冷えた石床が、急速に体温を奪っていく。
「なんで、あんな顔……」
もう訳が分からない。
痛む頭を抱えるシエラの肩で、テュールがおろおろと戸惑っているのが分かった。
ライナもエルクディアも、今晩この部屋に帰ってくるのだろうか。それとも、新しい部屋を用意してもらうのだろうか。
今このときにラヴァリルがいればいいのにと、シエラは唇を噛みしめた。
+ + + 空は、気持ちがいいくらいに晴れ渡っている。
次の見回りは、二日後だった。
さすがに神の後継者が襲われたとあれば、護衛をつけないわけにもいかない。ロルケイト城の武官で腕の立つ者を数人二手に分けて、シエラとエルクディア、クレメンティアとシルディの両方につかせた。
その人員を選び、準備するためにも二日を要したのだが、理由はそれだけではない。シルディの秘書官であるレンツォが、待ったをかけたからだ。
シルディが訊ねても、詳しい理由は教えてもらえなかった。「王子ならばそれくらい自分で考えなさい」と鼻を鳴らした彼に、シルディは野良犬でも追い払うかのようにして、城から放り出されたのだ。
人の集まる港を中心に、調査に赴く。
そういえば、シエラがやたらと自分と組みたがっていたことを思い出して苦笑した。
エルクディアとシエラの間に、なにかあったのは明白だ。やたらと距離を取ろうとするシエラと、何事もなかったかのように振る舞っているエルクディアの温度差が、端から見ていて痛々しい。
様子がおかしいのはこっちもだ。クレメンティアはガラス玉のような瞳になんの感情も映さないまま、静かに隣を歩いている。
下手に割って入って、どうこうできるものでもない。彼らの問題は、彼らで解決すべきだ。
あえてなにも言わないで来たが、次第にクレメンティアの機嫌が悪くなっていくのはいただけない。漁船専用の船着き場に着いた頃、彼女の苛立ちは最高潮に達しているようだった。
「異常なし、だね。うん、よかったよかった!」
「異常がないのはいいことですが、異変が見つからないのは問題では?」
「ええと……うん、そうだね。でもほら、まだ探しはじめて間もないし! シエラちゃん達と協力すれば、きっとすぐに見つかるよ!」
「どうだか」
漁船は二隻しか停泊していない。どうやらほとんどの船が沖に出たらしい。そのためか、辺りは人気(ひとけ)がほとんどなかった。
刺のある言葉は、ただの八つ当たりだ。いくら女心に疎いと言われるシルディでも、それくらいは区別がつく。
現にクレメンティアは今、気まずそうに眉根を寄せていた。
いいよ、そんな顔しなくて。分かってるから。