「もふもふ! もふもふー!」
「かーわーいーいーでーすぅー! わんちゃんもふもふー!」
「はなせっ、はなせというに! きつねよきつね、はようたすけろ!」
神の御遣いを連れて異夜荘にやってきたはいいが、犬は小娘二人にもみくちゃにされている。普通の犬とは異なると説明したのだが、子供の耳にはまったく入っていなかったらしい。
隣でため息をつく少年を見下ろして、月乃女は口端を吊り上げた。
「小僧、お前も『もふもふ』してくればどうだ?」
「え? ……ッ、ば、ばかじゃないですか!」
月乃女の視線の先にいたのは、健康的な黒髪を今日は一つに結い上げ、犬とじゃれつく少女だ。月乃女の視線を辿った少年は、その意味に気がついたのだろう。顔に朱を走らせた少年に妖しく笑んで、ぐっと肩に腕を回した。
熱く火照った耳に唇を近付ける。
「遠慮せずともよかろうて。あれとて野兎、撫で回したところで問題はあるまい?」
「のとは一応、人間ですから!」
「ほう、人の子に『もふもふ』とやらは似合わぬと?」
「普通はしません」
顔を背けた少年の背後に回った月乃女は、ひょんっと四尾を揺らしてつきのとを呼んだ。笑顔のまま振り向くつきのとに見せつけるように、月乃女は少年の身体を抱き締める。びくついた身体に構わず、彼女は熱い頬に舌を這わせた。
腕の中の少年と、向こうの少女がまったく同じ顔をして固まっている。
ぎゅう、と腕に力を込めて、月乃女は笑った。
「見ろ野兎、『もふもふ』だ」
案外人の子も『もふ』り甲斐があるものよ。
「ちっ、違いますぅううううううう! おきつねさまっ、なっくんを離して下さい! はやく! 今すぐに!!」
頼むから、
「わたしももふる!」なんて言わないで。