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* * *



「あれ、珍しいですね。ソウヤ一尉がアクセサリーつけてるなんて」

 誕生日プレゼントを持ってきたチトセが、ソウヤの胸元を見て首を傾げた。チトセの後ろから視線を投げたマミヤが、「ターコイズですか?」と小首を傾げる。

「いんや、オド、――オドンなんとかっつー、牙の化石だとよ」
「ああ、オドントライト。すごいですねぇ、これ、最近は全然流通してないんですよ。プレゼントですかぁ?」
「昔な」

 空色の牙の宝石。
 さすがに革紐は取り換えたが、石は未だに傷一つない。毎日つけているわけではないから、傷のつきようもないのかもしれないが。宝石の類に興味がそそられたのか、それまで一定の距離を開けていたマミヤが引き寄せられるように近づいてきた。
 細い指先が、鎖骨下で揺れる石を抓む。すぐそこに形良い旋毛が見えた。甘い花の香りが一瞬にして色濃くなる。さすがの「お姫さん」だと言ってやりたいが、そうすればまたしても機嫌を損ねてしまうだろうから唇はしっかりと引き結ぶ。

「元カノさんにでも貰ったんですかぁ?」
「女は女だが、母親だ」

 分かりやすく手元を震わせたマミヤの頭の中には、かつての暴露記事が浮かんだのだろう。幼い頃に死別した母のことは、あの雑誌を見た者ならば誰もが知っているはずだ。言葉を失くしたマミヤの代わりに、チトセが「綺麗ですね」とフォローしてきた。この二人は本当にいいコンビだと思う。
 マミヤの言う「元カノ」からも午前中にプレゼントを貰った。屈託のない笑みで「形にするものにしたらお姫様が拗ねるから!」と言っていたが、マミヤが自分にそんな気を抱いているとは到底思えない。ナグモの選ぶ酒に間違いはないのでありがたく頂戴したが、その辺りの勘違いは後日解いてやらねばならないだろう。

「で、お前らはなにくれたんだ?」
「ライターです。いいやつなんですから、大事にしてくださいね!」
「わぁってる。この通り物持ちはいい方だ、安心しろ」

 二十年以上前の石を失くさずに持っているのだと笑えば、チトセもけらけらと笑った。いつの間にか手を引っ込めていたマミヤが、深い緑の双眸をこちらに向ける。

「ソウヤ一尉、」
「ん?」
「……お誕生日、おめでとうございます」

 直前になって逸らされた目。胸の前で所在なく組み合わされた指先。拗ねるように尖った唇。
 純粋な感謝の気持ちに、ほんの僅かに振りかけられた嫌な予感。今はそれに気がつかないふりをして、ソウヤは形のいい頭に手を置いた。柔らかい髪が指の間から零れ落ちる。思い切り掻き回してやれば、すぐに振り払われてしまったけれど。

「ありがとな、お姫さん」

 チトセも。
 途端にチトセが「なにその取ってつけたような言い方!」と抗議の声を上げた。



 6月4日は、どうやら今もなお、少しだけ特別な日らしい。





(Happy Birthday, SOUYA!!)
(2014.0604)


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