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「君がなにに傷つき、どうして苦しんでいるのか、教えてくれてありがとうございます。つらいことを話してくれて、ありがとうございます。今まで一人でよく頑張りましたね」
「ふ、うぁっ……」
「もう我慢しなくていいんですよ。泣いて、いいんですよ」
だったら、もっと強く抱き締めて。叫ぶ声が外に漏れないくらい、強く。引きちぎれそうな胸の痛みを上回るほど強く、抱き締めて。
途切れ途切れの懇願に、セイランは忠実に応えてくれた。骨が軋むほど強く抱き締め、呼吸が苦しいほどに頭を胸に押し付けられた。痣が出来そうなほどの拘束の中で、ナグモは声を上げて泣いた。
――ごめんね、ふざけんな、どうして、ごめん。この世からいなくなってしまった友人に対して謝って、怒って、その繰り返しだった。
どうしてこんなに苦しいのか分からない。もう終わったことのはずなのに。そう言うと、セイランは困ったように言った。「リュウセイ二尉が君のかけがえのない友人であったことは変わらず、その関係は誰にも終わらせられません」と。
――そうだ。友達なのだ。いなくなってしまった今も、これから先も、ずっと。
だから、こんなにも悲しい。
やがて荒れ狂う感情の波が収まり、静かに凪いできた頃、ナグモは床に胡坐を掻いたセイランの膝の上にすっぽりと収まっていた。今頃瞼は腫れ上がり、化粧はすべて剥げ落ちてドロドロになっていることだろう。もうこの倉庫を出ることが恐怖でしかない。
ぐすぐすと鳴らしていた鼻もようやく静かになって、目元を覆っていたハンカチをそっと下ろした。セイランの香りが染み込んだハンカチは、いつだったかナグモがプレゼントしたものだ。
「……あの、えと……、あり、がと?」
なんと言えばいいのか分からず、自分の膝を見つめたままそう言えば、肩の上にセイランの顎が乗る。腹に回された手はがっちりと組み合わされていて、そこらのシートベルトよりも頑丈そうだ。
「落ち着きましたか?」
「……はい」
「ああ、目が腫れてしまいましたね。あとですぐに冷やさないと」
「うー……」
気まずさに唸るナグモを見て、セイランはくすりと笑った。なにが面白いのかと抗議するために開きかけた唇を当然のように啄まれ、用意していた言葉はただの吐息となって霧散する。
ぱちくりと瞬いた先に見えるセイランと、その背後の掃除用具のギャップに頭が混乱した。
「ナグモ。今度の休みに、付き合ってほしいところがあるんです」
微笑みながらも真剣な色を宿した瞳に思わず苦笑する。セイランがなにを意図しているかくらいは想像がつく。抱き締められる心地よさに身を委ね、それでもナグモは軽く首を振った。
「ごめん、いくらセイランとでもセラドンは無理」
「相変わらず君は詰めが甘い。違いますよ。僕が行きたいのは、レストランではありません」
「え? じゃあ、どこに……」
「君の育ったところに」
重たい瞼を限界まで押し上げ、ナグモは言葉を失ったままセイランを凝視した。
「君がどこで生まれ、どんなところで育ったのか、教えてください。君のご両親にご挨拶がしたい。君が過ごした学校を見たい。そして、君のかけがえのない友人にも会いに行きましょう」
リュウセイは地元の霊園で眠っている。安全指定区域のため、たくさんの植物で溢れる場所だ。高台からは住宅地が見下ろせ、夜になれば夜景が綺麗な場所だと聞いている。
そこはかつて、ナグモとリュウセイ、その兄のスイセイと三人で遊びに行った場所だった。