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 初めて出会ったその瞬間から、なにか嫌な予感はしていた。

「Hey, ダーリン。随分と可愛いナイトを連れてるね? いざとなったら彼女に守ってもらうのかい?」
「なに言ってるの? ワカバは守ってもらう側だよ」
「それは面白い冗談だね。――キミ、地上(ここ)じゃダーリンよりずっと強そうだけど?」

 星屑を集めて固めたような金髪に、鮮やかなスカイブルーの瞳。
 こんなにも明るい配色なのに、脳裏に浮かんだ印象は闇を纏った「黒猫」だった。


act.7:おのれ黒猫!
   〜深夜三時のメテオパニック!〜

 

 テールベルト、カクタス、ビリジアン。欠片プレートにおける主要三国の空軍学校での合同訓練が開催され、ワカバ達も一頻り汗を流したあとのことだった。
 学生達の合同訓練後には、毎年交流会と銘打って学生主催の“イベント”が行われる決まりらしい。さすがに軍属の学生のイベントというだけあって、その内容は訓練とそう変わらない。だが、公式ではない分、自由度は高かった。
 今年の交流会は、バーチャルエリアを利用しての壮大な“鬼ごっこ”が企画されていた。相手チームを捕まえて捕虜とし、終了時により多く残った――捕まえた――チームが勝者となる。
 ゲーム時間中は逃げ続けてもいいし、与えられた武器によって相手を潰してもいい。攻守のどちらに徹するかは、各チームの司令官に任される。ただしあくまでも捕縛を目的とするため、模擬弾が相手の急所に命中して死亡判定が出れば、撃ったチームのペナルティになるルールだ。
 あくまでも訓練後のお遊びのため、気楽に取りかかれと教官達は笑っていたが、ブリーフィングルーム内は“気楽”とは程遠い雰囲気に包まれていた。
 チームはそれぞれ八人一組だ。どの学年を固めるかは各国の判断に委ねられている。ワカバが割り振られたチームは、四学年合同のチームだった。同学年からはゼロが参加しており、知った顔の中にはキリシマもいた。グリーフェパイロットを目指すランの姿もある。
 四年生は知らない二人だったが、自然な流れで最高学年の彼らが司令部を担うことになった。斥候は二年生、前線に出て戦う役割は三年生に与えられた。ワカバとゼロの一年生コンビは、常にペアで「逃げ続けること」が任務となった。最後まで人が残っていた方がいいのだから、その判断は間違ってはいない。――間違っては、いないのだろうけれど。

「相手チームはカクタスの連中だ。力自慢の国だしな、おそらく総力戦でくるだろう」
「C地点を拠点とし、このB-1ルートをメインに使う。一年生は、そうだな……この辺りで隠れていれば大丈夫だろ」

 つまらなさそうにゼロが頷き、それを誤魔化すようにワカバが笑顔で返事をした。キリシマが苦笑している。
 四年生達は自信たっぷりに笑って端末の地図を眺めていたが、ワカバにはどうにもすっきりとしなかった。そしてそのすっきりとしない気分のまま、交流会は始まったのだ。



『二年の二人が捕まった! B-1ルート占拠! ――さっ、三年! 突撃しろ!』

 無線に飛び込んできた慌てふためく声に、思わず舌打ちが漏れた。隣で腹這いになっていたゼロが、驚いたようにこちらを見る。バーチャルエリアとはいえ、土の匂いや感触は本物と変わりない。木々の中に身を隠したワカバは、次々と放たれる整合性のない指令に地面を抉る勢いで拳を握り締めた。
 あの四年生達は、まったくもって使い物にならない。下された突撃の命令に、苦笑交じりにキリシマが応答したのを聞き、ついに耐え切れなくなってワカバは低く唸った。

「ありえないありえないありえない! なんなの? あっさり捕まる先輩方も先輩方だけど! 斥候の意味分かってんの? なにやってるのあの人達!」
「……あー、俺もあんま理解してないかも」
「本隊の移動に先駆けてその前衛に配置され、進行方面の状況を偵察しつつ敵を警戒する任務につくこと! こんなの常識でしょ、座学でなに聞いてたの!?」
「寝てた」
「ばか! とにかくっ、斥候の中でも今回は偵察が目的だったの! 確かに危険だけど、ていうか危険だからこそ、経験積んだ人間出せって話でしょ!? これはあくまでお遊びなんだから、単純に考えればいいじゃない!」

 小声で怒鳴るワカバをまじまじと見つめながら、ゼロが感心したように頷いた。

「うん。やっぱあんた、こっちの方がいいや」
「今はそんな話どうでもいい! 大体、突撃ってなに!? 戦力が劣勢なら、防御に徹するべきじゃないの!? 地形の把握もろくにしてないのに無闇に動いてどうすんの!」
「え、でも、地図はちゃんと見てたじゃん」
「“見てた”のと“把握した”のとは違う! あの場合、多少遠回りでも東のD-2ルートを選ぶべきだった。キリシマ先輩だってそう言ってたでしょ」

 ブリーフィング中のことを思い出すだけで、余計に苛立ちが加速していく。



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