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「――お姫さんの正義の味方ごっこで済む問題じゃねぇぞ」
「分かってますよぉ。でも、ソウヤ教官。わたしね、思うんです」

 動くたびに流れるのは、緑の黒髪だ。
 鏡に映るこの瞳は、深く、濃い緑。

「“わたし達”の血を糧に咲いた緑を踏み躙るような真似は、絶対に許さない。あのプレートの緑は、そうじゃないとしても。なぜ、上は三尉達を助けに行かないんですか。軍律違反だというのなら、“回収”し、裁くべきです。なぜ、それをしないんですか。守り手を見捨てるような体制ができたのなら、またあの悲劇が起きる。……マミヤ、そんなの困っちゃう〜」
「オイ、かわいこぶってんじゃねぇぞ」

 引きつった顔でまっすぐに見られて、マミヤはますます唇を尖らせた。

「ひっどぉい。でもね、本心なんですよ? わたしにはよく分からないけど、でも、なにかが“おかしい”。だから、ソウヤ教官にも協力してほしいんです」
「それで除隊になったらどうしてくれる」
「そのときはぁ、責任取ってマミヤのお婿さんにして差し上げますよぉ。未来の王様、なぁんて!」
「……ねーよ」
「あ、ちょっとぉ。本気で嫌がらないでくださいよ。マミヤ傷つくぅ」

 軽口を叩きつつ、マミヤは自分の髪を一本引き抜いてソウヤに渡した。絹のようだと喩えられる長いそれを受け取って、「ただのゴミだろ」とソウヤは鼻で笑う。
 ああそうだ。抜けた髪はただのゴミでしかない。中には欲しがるキワモノもいるが、そんな者の方が稀だ。マミヤだって、ブラシに残った髪はそのままゴミ箱に捨てる。たかだか髪に、深い意味があるはずもない。
 だが、ソウヤの手に渡ったのは王族の髪だ。

「緑の記憶。数々の罪。わたしはそんなものこりごりですけれどぉ、でもね、その一本に、たぁっくさん詰まってるんですよ。……わたし達王族は、ずぅっと鳥籠に閉じ込められてきたんです」

 古の遺伝子操作が生んだ、美しい緑の王族。
 その傲慢さが、かつて悲劇を生んだ。
 ソウヤがぴくりと眉を動かしたのが分かった。どの言葉が彼の琴線に触れたのか分からない。それでも、畳み掛けるなら今しかなかった。階級は遥かに下。命令どころか、「お願い」すらおこがましい。
 だが、マミヤはその血に「緑」を宿している。

「ソウヤ教官。――わたしのために、飛んで?」



 ひいてはこの、テールベルトの未来のために。



【10話*end】

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