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* * *



 ――わたしは許さない。
 この緑を奪うことを。
 この翼を奪うことを。
 鳥籠の中は快適か。
 そう問われたのなら、答えよう。

 そんなもの、クソ食らえだ。




「ソウヤ教官、すこぉしお話よろしいですかぁ?」
「あ? マミヤか、どうした」
「ヒュウガ隊のことなんですけども」

 切れ長の青い瞳がすっと細められた。テールベルトの人間は、黒か茶色の目を持って生まれることが多い。ゆえに、ソウヤの瞳はテールベルトでは少し珍しい。ヴェルデ基地内でもよく目立ち、「空を映した」と評判だ。
 特殊飛行部に所属している彼の隊は、つい先ほど他プレートから帰還したばかりだ。シャワーを浴びたばかりなのか、彼の引き締まった身体からは石鹸の香りが漂っていた。
 無言で場所替えを促され、マミヤは軽く頷いてそれに応じた。すぐさま端末で空いている会議室を押さえて、滑り込む。がらんとした室内。電気をつければ、白い光が目を刺した。
 長机に腰かけ、ソウヤは難しい顔をして腕を組んでいた。
 ――きれーな青。緑だったら、もっとよかったのに。

「ヒュウガ隊になんかあったのか」
「表立ってはなぁんにも。でも、スズヤさん達には会えなくなっちゃってます。上層部がどういう動きをしているのか、ソウヤ教官ならご存知かなぁと思いまして」
「……いや。俺にも下りてきていない。お姫さんが知らねぇなら、俺が知るわけねぇだろ」
「教官、その呼び方やめてくださぁい」
「そいつぁ失礼しました、マミヤ士長殿」

 わざとらしく敬礼を見せつけられ、マミヤはぷぅと頬を膨らませた。
 いくら王族の人間とはいえ、今のマミヤは軍の末端にいる一介の軍人に過ぎない。上層部の企みなど知る由もない立場だった。両親に頼めばそれも可能かもしれないが――と一人ごちたところで、ソウヤに額を叩かれる。

「いたっ」
「まだ動くんじゃねぇぞ。今、王家が動いてみろ。お前が関わってんのは丸分かりだ。首飛ぶぞ」
「分かってますよぉ。でも、動かせるものは動かさないと損じゃないですか」
「それにはまだ早いっつってんだよ、馬鹿」

 唇を尖らせるマミヤに構わず、ソウヤは襟を寛げて天井を仰いだ。――あと十年したら好みかも。場にそぐわない思いを秘め、マミヤは優雅な仕草で端末を彼に突きつけた。胡乱げに一度マミヤを見て、ソウヤは端末を受け取る。
 画面を確認した彼は、呆気にとられたように口をぽかんと開けた。

「おま、これ……」
「パパの個人端末番号でぇす。ソウヤ教官には特別、ね?」
「……お前、こんなもん握らせて俺をどうする気だ。え? 正直に言ってみろ。今なら腕立て二百で許してやる」
「わたしには二百回も無理ですよぉ! それに、どうする気もありませんもん。ただ、なぁんか気になっちゃって。わたしには分からなくっても、頭のいいソウヤ教官ならなにか分かるかなぁって。そしたらぁ、これが役に立つかなーって」
「そりゃ買いかぶりすぎだ。俺の頭は、飛ぶこと以外にゃ役に立たねぇよ」
 
 大きな手。硬い手のひら。
 知っている。その目が、空を、緑を、愛おしそうに見つめていることを。

「じゅーぶんじゃないですかぁ」
「あん?」
「テールベルト空軍特殊飛行部、白木駆逐隊。――“飛ぶ”ことのスペシャリスト。ねっ?」

 空を渡り、白を駆逐し、緑を取り戻す。
 それが正義であるはずだ。それがすべての望みであるはずだ。
 だのになぜ、それを阻むような事態が起きているのだろう。マミヤにはそれが納得できない。ナガトもアカギも、マミヤと直接関係があったわけではないし、無論、親しい仲でもない。深い思い入れなどない。
 けれど、過去を知る王族の一人として、今回のことには違和感を拭いきれない。
 緑は守られるべきだ。
 なのになぜ、翼を狩る。


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