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 寄生植物と一口に言っても、その種類はいくつかに分けられる。半寄生、全寄生、活物寄生に死物寄生。白の植物はこのすべてに当てはまる。半寄生から始まり、生きた宿主や死んだ宿主に関わらず全寄生していく。白の植物がこのプレートの植物と大きく違うのは、寄生する植物の本体が宿主に接触していないということだ。
 たとえば、真っ白な林檎の木。これが宿主を野兎に定めた場合、木の根が兎を取り込むなどということはあり得ない。花粉と共に特殊な胞子を飛ばし、徐々に野兎の神経を冒していく。そして電気信号を送り込み、完全に神経回路を掌握したところで核(コア)が寄生し、そこから養分を吸収、次の宿主を探しにいく。

「植物というよりは、動物……いや、バケモノか」

 顕微鏡を覗きながらの独白にスツーカは答えない。それでよかった。答えなど求めた呟きではなかった。
 一通りやることを終えると、身体が睡眠を求め出す。いつの間にか気を失い、ああよく寝たと起き上がると――、

「あいたぁっ!!」

 陳列棚さえ連想させる、狭苦しい三段ベッドで朝から星を散らすはめになった。


* * *



 夕食には鮮やかな緑色のブロッコリーが出た。一緒にカレー粉で炒めたカリフラワーも。
 母と二人だけの少し寂しい夕食を終えたあと、母が買ってきた薔薇の入浴剤を溶かした風呂で身体を休めた穂香は、一人自室に篭もって黙々と勉強していた。
 歴史の年号、英語、数学。それらを適度な休憩を挟みつつ頭に叩き込んでいく。地道にこつこつ重ねていくのが穂香の勉強スタイルだ。姉の奏は受験前にまったく勉強せず、一夜漬け状態でセンター試験に臨んだというのだから驚きだ。
 英語の長文問題に取りかかっていたところで、南向きの窓からコツンと小さな音が聞こえた。コツン、コツン。風の音と共に、なにかが窓を打ちつける。
 相変わらず心臓が跳ねた。窓を開け放つと、ぶわっと大きな風が髪を煽る。癖のない黒髪は大きく波打ち、やがてすとんと背中に落ちた。暗闇の中、映画やアニメの世界にありそうな鳥のような木にぶら下がったナガトが、穂香を見るなり優しく笑う。

「こんばんは、ほのちゃん。お邪魔するね」

 しゅっと音を立てて三十センチほどの竹筒のような形になったそれは、飛行樹と呼ぶらしい。ボタン一つで翼が飛び出し、ハンググライダーのような形に枝や葉が広がる。携帯用のもので、こちらの感覚で言えば折りたたみ自転車のようなものだと初めて見せられたときに彼は言っていた。「移動には便利なんだよ。使ってみる?」そんなことを軽く言うものだから、ナガトはアカギにぴしゃりと叱りつけられていたけれど。 
 初めて飛行樹を目にしたのが三週間前――ちょうど、父が白の植物に感染し、ミーティアやハインケルという新しい珍客が来たあの日だ。あのあと、穂香と奏は彼らからゲームの世界のような話を聞かされた。
 白の植物の驚異は異世界を侵略する。穂香達は濃厚接触者であるがゆえに、白の植物を引き寄せやすい。この世界はまもなく未曾有の大混乱を迎えることになる。世界を救うためには、濃厚接触者である穂香達の協力が必要だ、と。随分と噛み砕いて話したと言ったが、大筋はこんなものらしい。
 奏は「それ、どこのB級映画?」と失笑していたが、その実、話の八割以上をすんなりと飲み込んでいることが雰囲気で伺えた。表面上では穂香も納得したそぶりを見せたが、内心は未だに疑いを隠せない。目の前でどれだけ非現実な現象を見せつけられたとしても、心が納得してくれない。
 協力の内容についても、彼らはあまり詳しく語ろうとしなかった。大まかな内容は教えてくれたが、具体的にどうすればいいかを奏が訊ねると、上手くかわして誤魔化される。
 三日に一度行っている目に見えた「協力」が、夜の訪問による定期検診だった。



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