▼03
輝な水が流れ、美しい谷間には、虹がかかっている。
(ここは……)
「太極山なのだ!」
華の疑問に答えるように、井宿は言うと、華の手を握り歩き出す。唐突なその行動に慌ててついていけば、目の前に小さな廟が見え始めた。
(綺麗……)
色とりどりの花が咲き乱れる中、華は目を輝かせる。井宿が、廟の扉を開けて、中に入ると、外から見えていた面積とはおおよそ似つかわしくない大きさの部屋が顔を出し、華は足を止めた。
「ここは、天帝・太一君が住むところ。オイラは、その人から君を連れてくるように言われたのだ」
ニコニコとした顔をしたまま、困惑に足を止めた華の方を振り返る。華は、小さく頷くとキョロキョロと、その天帝とやらを探して顔を振り向かせた。
(本当にここ、本の中なのかな……)
本の中とは思えない程のリアルさに、思わず自分の頬をひっぱたこうと、手を振り上げた瞬間。
目の前に現れた皺くちゃなおばあさんの顔に驚いて、その場に尻餅をついた。
「太一君!」
「井宿、遅かったの」
井宿の手によって立ち上がることのできた、華は改めて、目の前の顔をまじまじと見つめる。
「この娘か……」
(すごい……皺くちゃなのにとても元気なのね……)
華の心の声に気付いたらしい太一君がおや、と驚いた声をあげる。
「どうしたのですだ?」
「この娘、わしをみても驚いておらん……それどころか、感動しておる……」
その言葉に井宿も驚いて、華を見つめる。確かにその目には驚いた色などは微塵も滲んでおらず、それどころか、キラキラしていた。
「……華よ、よく聞くが良い」
こほんと、咳払いを一つした太一君が華に向き直る。華は、キョトンとした顔でそれを見つめた。
「お主は、玄武、白虎、青龍、朱雀。全てに属する四神の巫女じゃ。ゆえに、巫女を助け、巫女が神獣を召喚する手助けをせねばならぬ」
(はぁ……)
「お主と来た、異世界の娘がおったであろう。あれは朱雀、青龍の巫女として呼ばれたのじゃ。本来二つの神獣の巫女が表れることなどめったにないのじゃが……」
「今回はなぜかそうなってしまったのだ……」
太一君の言葉のあとに、井宿が苦虫を噛み潰したような顔で言う。
(そんなにまずいのですか?)
自然と口が利けなくなってから、身についてしまったジェスチャーとともに、問う。すると、井宿がそれに答えてくれた。
「朱雀を象徴とする、紅南国と、青龍を象徴とする倶東国は、いまちょっと危ない状態なのだ……」
(要するに……一触即発な感じってこと?)
「それは、どういう意味なのだ?」
井宿が聞きなれなかったらしい四字熟語に興味を示す。華が答えようと、手を動かした瞬間。ぴくりと、身体がこわばった。
「華ちゃん?」
井宿が不思議そうに、顔を覗き込んでくる。華は身体がこわばった理由がよく分からずに、困惑した顔で井宿の袈裟をつかんだ。
(……倶東国……)
知らないはずの、場所が頭にふと浮かび上がり。くらい茶髪を切りそろえた少女が映し出された。その見覚えのある顔に、思わず口を開けて無音で叫ぶ。
(唯ちゃん!!!!!)
「華ちゃんっ?」
井宿が急に取り乱し始めた華の肩を掴む。それに、ようやく井宿の存在に気づいた華は、井宿の袈裟をさらに強く掴むと
(お願い、お願いします! 倶東国に……っ、唯ちゃんのところに連れて行ってください……!!)
そう懇願した。



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