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それぞれが疲労困憊の中、海に落ちた三人を救出する。

そして、ようやく一息ついたと思ったその時。

「ぶつかる……!」

何処からともなく聞こえた声の後、船は岸に乗り上げその動きを完全に停止させてしまった。

(井宿……ここは北甲国じゃないわよね……)

「残念ながら、違うのだ」

船はボロボロになり、このまま船旅を続行と言うわけにはいかない。

悩んでいると張宿が何かに気づいたように声を上げた。

「み、皆さんっ、ここはまずいです! すぐに女装してくださいっ」

「へ??」

張宿以外の七星士たちが一斉に首を傾げた。

「ここは女誠国と言って……いた!」

慌てていたせいだろう。

ボロボロになった甲板に足を取られた張宿が思いっきり顔からすっころんだ。

(ち、張宿!? 大丈夫?)

慌ててが助け起こし、怪我がないか確認する。

怪我はしていないようだ。

しかし

「え…と。僕は何を言おうとしてたんでしょう……?」

年相応のか細く、震えた声が聞こえは勢いよく顔を上げた。

「なにボケかましてんねん!」

涙ぐんだ張宿を見て、翼宿がごまかすようにぽかっと軽く頭を殴る。

いつもの張宿であればそんな事で泣いたりなどしないのだが、

「痛い……」

そういって本格的に泣き出してしまった。

「あ……みて、字消えてる」

美朱の声に、足元をみる。

確かに字は消えていた。

「ぼく、字が出てないとだめなんです……頭が働かない……」

「な、なんやと!?」

突然のカミングアウトに加え、何やら重要そうなことを口にしようとしていた張宿の言葉に、全員が驚愕する。

しかし、幼い張宿が字をコントロールする事は難しく、消えたそれは一向に現れる様子はない。

「……仕方ないのだ。全員、張宿の言った通り、女装するのだ……」

 

 

 

 

 

井宿及び、れっきとした女性である美朱は外にいた。

は女性でありながらも柳宿に引っ張られ、他の七星士と共に壊れた船室へと姿を消していき、現在井宿と美朱のみがたたずんでいる。

「ねぇ井宿」

「だ?」

「井宿は女装しないの?」

「オイラには必要ないのだ」

「あ、そっか。術があるんだもんね」

「そーいう事なのだ」

突然、今まで静かであった船室のドアが唐突に開き、後宮にいたころのように着飾った柳宿が出てくる。

「あーやっぱりアタシはこの格好が似合うわねぇ」

「オカマは潮時なんじゃなかったの?」

「それとこれとは別なのよ。さー、早く出てらっしゃい!!」

柳宿の楽し気な声に促されて、まずがおずおずと出てきた。

紫を基調としているが過度な大人っぽさはなく、どこか幼さの残るを一層引き立たせるようなその服に、思わず美朱が拍手を送る。

「すっごいキレイ!! ね、井宿もそう思うでしょ!?」

「……だ」

(ほ、本当に? 変じゃない……?)

「このアタシがしたんだから、似合わない事はないわ。自信を持ちなさい」

柳宿の言葉に、華は半信半疑ながらも仕方なく頷いた。

「ほら、何やってんの!  早く出る!!」

未だにぐずぐずと出てこない他のメンバーにしびれを切らし、柳宿が手を叩く。

すると観念したのか、張宿と鬼宿、そして翼宿のメンバーが恐る恐るといった形で出てきた。

みな、それなりに似合っている。

張宿は幼さもあって、可愛らしい。

しかし……

「み、軫宿……っ」

一人、明らかに女性になりきれない人が一人。

皆がみなそっぽを向き、軫宿も似合わない事を悟っているのか何も言わない。

「と、兎に角そろそろ行くのだ!」

なんとも言えない空気が流れる中、井宿が女性へと変身し、ようやく一行は女誠国へと足を踏み入れた。


(井宿、可愛いわ)

隣を歩くほんわかとした美人に変身した井宿をみる。

その姿は、自分よりも可愛いと思う。

「華も、よく似合っているのだ」

いつもは見ない服をみにまとった華は、壊れそうな儚さを携えていて、井宿は何処と無く不安を覚えた。

それは、愛しい人だからなのだろう。

 「止まれ!!」

突如頭上より、凛とした声が聞こえて一行は足を止めた。

鎧をきた女性がずらりと並んでいる。

「……全員女か」

「すみません、北甲国へ向かう途中で船が壊れてしまって……」

いつもの口調を変えて井宿がおずおずと言う。

「北甲国へ?  それはまた随分と逸れましたね……まぁ、実際にはこちら側の方が近道なのですが」

「それは本当ですか!?」

「ええ」

嬉しそうに美朱が顔を輝かせる。

女誠国の人たちは、見た目が女である朱雀一行を快くもてなそうと、武器を下げこちらに近寄ってきた。

「……ん!?  お、男がいるぞ!!」

しかし、近寄った為に軫宿の存在を見つけてしまい、再び武器を構えられる。

知識のない華達にはどうすることも出来ず、軫宿のみ縛られて連行されて行ってしまった。

(ち、井宿……軫宿どうするの?)

「なんとか見つけて、北甲国への行き方を聞いたら逃げるしかないのだ……っ」

「ていうか、ここはどういうところなのよ!」

「張宿っ、まだ字はでぇへんのか!?」

「すみませんー……」

ボソボソと決して小さくはない声でどうしようか、と悩んでいたら急に先頭を歩いていた女の人が立ち止まり、こちらを振り向いた。

「こちらへどうぞ。ちょうど宴を開いておりましたのよ。ぜひゆっくりしていってくださいませ」

「あ、はい……」

力なく、美朱の声が萎んでいく。

結局、その日はここに世話になることになりそれぞれにご馳走をいただくと、案内された部屋で作戦を練ることになった。


(……美朱と同じ部屋がよかったわ……)

「オイラとじゃ、嫌なのだ?」

(そういう訳じゃないわ。何かあった時、困るでしょう……?)

「大丈夫、鬼宿がついてるのだ!」

(そう……ね。ところで井宿。軫宿なんだけどね)

くいっと井宿の手を引いて、気を集中させる。

すると、わずかだか軫宿の気を感知して、彼が捕まっているのが地下であることが判明した。

(地下に……居ると思うの。私、助けてくるわ)

「華」

静かに名前を呼ばれて振り返る。

振り返りざまに、井宿に唇を奪われた。


(ち、ちちり……?)

突然のことに、頭がついていかず、抵抗も忘れて華はピシリと固まった。

ぺろりと唇を舐められて、井宿の顔が離れると、いつの間に術を解いたのか、いつものあの顔がそこにあった。

「先程、だいぶ力を使っただろう?  華は休んでいるのだ」

(でも……!)

ふいに景色が回って、気づいたら井宿が自分の上にいる。

(井宿……)

「無茶はして欲しくない」

その体制に、思わず記憶が蘇りかけて咄嗟に井宿の服の袖を掴む。

震えていたのだと思う。

自覚はなかったけれど。

「華……?」

(こ、こわい……)

心中で呟いたものなのか、それとも人に向けて放ったものなのか分からず、ぎゅっとを閉じる。

既に塞がったはずの頭の傷がズキズキと痛むような気がした。






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