▼37
着々と北甲国へ行く準備が進められていた。
柳宿や軫宿達が、星宿の用意した大きな船へと荷物を運んでいく。その様子をぼーっとながめる華と翼宿。
お互いに顔色は思わしくなかった。
「翼宿、どうしたんだよ?」
星宿の命により家族全員を安全な紅南国の土地へと移住させ美朱といちゃいちゃと楽しそうに日々を過ごしている鬼宿が翼宿をからかうように声をかけた。
「……なんでもあらへんわ」
ぶすっとした表情で機嫌が悪そうに答える。華はため息をつくと翼宿の頭に手を置いた。
(お互い大変ね)
「……せやな」
(……鬼宿、美朱が呼んでるわ)
「お?」
鬼宿の後ろで美朱がちぎれんばかりに手を振っている。華はそれを指差して鬼宿をその場から追い出すと、柵に寄りかかり水面に目を向けた。



『やだー、華ったらカナヅチなのぉ? しんじらんなーい』
『そーいえば、水泳の授業、一度も顔出さないよね? というか、体育もよね? なに? 虚弱体質アピール? ウケるんですけど』
(……ばっかみたい)
浮かんでは消えていくのっぺらぼうの同級生たち。浴びせられた言葉は刺々しいものばかり。
それもこれも、なにがいけなかったのか華にはわからないし、何かのせいにするのも違うと思った。
(翼宿、大丈夫よ)
「あ?」
(死にはしないわ。……いいえ、私が死なせないから)
「……華」
(なに?)
「……すまんかったな」
(……翼宿が気にする必要はないわ。あれは私が悪いの。それでいいの。だから……)
「いいわけあるか!! 俺はお前の事を仲間やないって言おうとしてたんやぞ!?」
(あなたの気持ちはわかってるわ。大丈夫。だから……お願い。美朱を……守ってあげてくれる?)
「た、す……き」
翼宿は華が絞り出した声と、泣きそうな顔に面食らって黙り込んだ。
華はそれを見て、残酷な事をしていると思いつつも再び翼宿の頭を撫でる。
「おい」
むすっとした顔でその手を翼宿が掴むまでずっと。
「華、俺を子供扱いすんのはやめぇ」
(私は21よ。翼宿はもっと若いでしょ)
「年は関係あらへん」
(……それもそうね。ごめんなさい)
翼宿がパッと手を離した。華が水面から顔あげる。
(そろそろ……時間ね)


荷運びが終わろうとしていた。



「華、準備はいいのだ?」
(井宿。ええ、大丈夫よ。持っていくものも特にないもの)
いつもより簡素な服に着替えて、大事な物だけ肩掛けのバックにいれて華は部屋から出た。
「美朱ちゃんはたくさんもってたのだ」
(美朱は食べ物とか、本とかもっていくものがあるもの)
「華は何を持っていくのだ?」
(母からもらったハンカチと、この携帯。それとポーチね)
電池はとっくに切れてしまい使い物にならない携帯をバックから取り出して井宿に見せる。
井宿は納得したように微笑むと華の手を自然に握った。
「では行くのだ!」




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