▼19
突き飛ばした瞬間、風が舞い上がった。美朱達の前に大きな狼が現れる。井宿は美朱を背後に隠すと、錫杖を掲げた。
「よぉ、お前が頭やて? 大したもんやなぁ……しかも趣味もおかしゅうなってからに」
華は自分のすぐそばで話す男を見上げる。華は突如、風と共に乱入してきた男に抱えられていた。宙ぶらりんになった手と足。しかし、華は抵抗しなかった。この男から悪意を感じなかったのもあるが、それ以前にとある気配を発してたからである。それは、華達が探してやまないもの。
「華ちゃん!」
美朱が叫ぶ。井宿と柳宿は現れた狼に手を焼きながら、それでも華の方を見ていた。
「げ、幻狼!!」
今まで伸されていたあの頭が起き上がる。器用に貴重品が入っていると一目でわかる箱を引き寄せると、その中からハリセンを取り出した。そしてそれを振り上げる。
「烈火神焔〜っ!」
そう叫びながらハリセンをなぎ払った。途端、勢いよく何も火の気のないところから火の手が上がった。驚く華たちをよそに、幻狼と呼ばれた男はふんっと鼻で笑うとそれを軽々とかわす。そして足をかけていた窓枠から足を離すと、ふわりと飛び上がった。
「こいつは人質としてもらってくで! 返して欲しかったら明日の正午俺と決闘や! ほなな!」
「華ちゃん!」
「華!」
皆が叫ぶ中、幻狼は暗闇の中に華を抱えたまま身を投じた。





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