▼12
「アタシに相談?」
(はい)
華は頷くと、柳宿の服を指差した。
(私は、美朱を……あなた達を守りたいんです。けれど、この格好だと守りづらくて……だから服を貸していただけませんか?男物でいいんです!)
柳宿を見て性別を偽るのも一種の手。そう踏んだ華は、化粧品を持ったまま呆然としている柳宿へと詰め寄る。断られるか、と説得しようと華が口を開くが、柳宿は、たった一言。
「そう」
そう呟くと、何やら服がしまいこんでありそうなタンスではなく、小さな箱の方を開けてごそごそと中身を弄り始めた。
「華……で、もういいわよね。あんたのその気持ち痛いほどわかる、だから協力してあげてもいいけど……」
(柳宿さんは、星宿さんがお好きなんですよね?)
驚いたようにこちらを振り返る柳宿。今日宮殿を散策するうちに聞いた噂の一つだ。
後宮の妃候補の中に七星士がおり、そのお方が妃に一番近いのではないか、そしてその七星士は星宿の事が好きなのだという。
(あ、私そういうの偏見ありませんし、むしろ人が好きになれる柳宿さんに幸せになってほしいと思います。……なので、服を貸して頂く代わりに、私が柳宿さんのお手伝いをします。……実るかはわかりませんが)
ぽかんとした柳宿は、しかし小さく笑みをこぼすと、
「……ふふっ、華。あんた凄いわ。よろしく」
そう言って手を出してきた。その手を握りながら、華も微笑む。
(こちらこそ)
「さて……これでいいかしら?」
柳宿が取り出したのは、シンプルな形の衣服上下。動きやすそうな布地と、デザイン。チャイナ服の男性バージョンのようなものだ。
(それで大丈夫です、ありがとうございます)
「いいのよ、それよりその敬語やめない?」
(え……でも)
「アタシそういう固いの嫌いなのよね」
ほら、やめる!そう言いながら、柳宿は華の頬を軽く引っ張った。イタタタ、と顔は歪むが、華の口からその悲鳴が漏れる事はない。柳宿は、それを見て頬から手を離すと、ぽんぽんっと華の頭を優しく叩いた。
(……あ、あの……?)
柳宿の意図が読めず、華は首を傾げる。瞬間。
「華!」
いつになく、怒ったような声で、井宿が柳宿の部屋のドアを開けた。
(井宿さん!?)
「来るのだ! 柳宿も!」
井宿が声を荒げ、華の手をつかんだ。そのまま井宿は歩いていく。華は柳宿から借りた服を落とさないよう抱えなすと、小走りになりながら井宿の後についていった。





ついた先は、美朱の部屋だった。そこには鬼宿も、星宿も集まっている。
「朱雀の巫女……朱雀が七星士一人、鬼宿をこちらへと寄越せ。さもなくば村を攻撃する」
どこからともなく声が響き、華は思わず顔を上げる。そこには天井に張り付いた何者かがいた。
「そこなのだ!」
井宿が術を放つ。すると、半透明だった男の姿が現れ、勢いよく飛び降りてきた。
慌てて、華は美朱を守るように自分の方へ引っ張る。バランスを崩した美朱を後ろへとやり、敵と対峙しようと身体を向けた。しかし、敵は既に外へと逃げ出していた後だった。
「待ちなさい!」
柳宿がそばにあった瓦礫を掴んで思いっきり敵に向かって放り投げる。敵にあたるかと思えたそれは、敵がぴょんっと軽々と壁を乗り越えた事で的を外し、高級感漂う宮の壁を破壊してしまった。
「やっだー、あいつ壁壊したわー」
「お前だろ!」
鬼宿のツッコミが炸裂する。井宿は耳をすませ敵の気配を探るが、やがて諦めたように探るのを止めて、星宿の方へと向き直った。
美朱は、バランスを取り戻し、鬼宿の服を掴んでいる。
「村が襲われたというのは……?」
「本当の事だ……」
「そんな……」
星宿の答えに美朱の顔が青ざめる。
「井宿、少し良いか?」
青ざめ、床に座り込んでしまった美朱に寄り添う鬼宿から視線を外し、井宿へと声をかけた星宿は、そのまま部屋から出て行ってしまう。
去り際に、星宿から部屋がかかれた紙を貰い、華はそれを見つめた。
(……あれ)
いつもは、漢字の羅列にしか見えなかった文字。それが、日本語を見ているように読める。
華はその変化に、違和感を感じつつも、今はそれどころではないと首を振り考えを振り払うと、紙にかかれた部屋へと一人向かった。
いくらかも歩かないうちに、美朱達からは少し遠い離れに用意された部屋についた華。その距離に、少しだけ嫌な思いを感じながらも、華は静かにその中へ身体を滑り込ませた。
中は広く、一人で使うには少し贅沢過ぎる。
侍女が用意したらしい水差しにはたっぷりと水が注がれており、ふかふかのベッドには、寝巻きまで用意されてあった。
華は、ぐるりと部屋を見渡しそして、服に手をかける。勢いよくばさっと脱ぎ、そして、柳宿から借りた服に着替えた。
サイズまで見て貸してくれたのか、やや小さめなそれは華の身体に優しくフィットする。華は、くるりと回って自身の格好を確認すると、腰布をぎゅっと締め、胸元をあけると、そこを覗き込んだ。
(ここは……どうしよう。隠すほどあるわけじゃないし……)
女性にしては小ぶりな胸を見つめ、ため息をつく。下着を外し、厚手の布をそこへ巻きつけ、服を元に戻せば、そこにあった膨らみは全く無くなり華は、小さく笑った。
(これだけで隠れちゃうなんて……便利なよーな……悲しいよーな……)
でもこれで、以前のように絡まれる事はないだろう。美朱を、唯を守れる。華は、肩まである髪を後ろで一つに束ねると、部屋から外へと出た。



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